Jigokudo
□Just trust Me
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竜也兄は小さく溜め息をついて足を踏み出すと椎名の前に立ち、頭ひとつ分小さなその身体を何も言わずに抱きしめた
あの男は何者なのか、一体どういう繋がりなのか、また何か危ないことに首を突っ込んでいるんじゃないか、聞きたいことは山ほどあった
けれどそれらの問いは竜也兄の口から音になって出ることはなかった
それら全てが他でもない竜也兄に知られたくないことなのだということは椎名の態度から痛い程に感じられた
できることなら触れないでいてやりたい。けれど“あの”椎名が怯える程なのだ。黙っているのも躊躇われた
「裕介、あのな…」
「ここであったこと……てっちゃん達にも言わないで…」
「………」
「お願い」
竜也兄は何も答えなかった。そのかわり抱きしめる腕に力を込めた
自分が力になれるなら、いつでも縋ってこいという思いを込めて
「竜也兄……ごめん…なさい……」
腕の中で守るように抱かれながら椎名が言えたのはそこまでだった
後はもう胸の奥で何かがつっかえたように一言も声を上げることが出来なかった
何も言えないことで竜也兄に余計な心配をかけることが苦しい
けれど言ってしまえばそれはまた新たな心配として竜也兄にのしかかってしまう
椎名にはむしろそのことの方が辛かった
だからと口を閉ざす自分はこれでいいのだと思う一方でどうしようもなく狡い人間だという自己嫌悪を感じさせずにはいられない
狡い、自分は狡い
何も言おうとしないくせにこうして竜也兄の優しさに縋る自分が
けれど……
椎名は竜也兄の胸元に頬を押し付けた
今はただこの変わらない優しさだけを感じていたくて、その温かさに身を委ねるようにそっと目を閉じるのだった
END?
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