Jigokudo
□HELP ME??
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巡回ももうすぐで終わりという時だった
ポケットに入れた携帯電話のバイブレーションが短く震えてぴたりと止まる
俺は自転車を道路の脇に停めてディスプレイを確認する
そこには『椎名裕介』の名前と共に奴の携帯電話が表示されている。…とうとうこの時がきたか、俺はがくりと落胆しながら発信ボタンを押した
……が
「………?」
どうしたことだろう。さっきから一向に繋がる様子がない
何度かけても感情のないアナウンスが電源が入っていないか電波の悪いところにいるためかかりませんと繰り返すだけ
悪戯か、とも思ったがどうにも引っ掛かる…確信というよりも長年培った勘ともいえるが
しかし頼みの携帯が繋がらないとあっては捜そうにも容易には捜せない
ここは地道に聞き込みでもするか……と自転車のペダルに足をかけようとした時だった
ひらり
そんな形容の似合う何か白いものが目の前を静かに横切る
「蝶…?」
だが蝶というにはあまりにも不可思議な動きをしている。普通蝶々なんて人間においそれと近付いてはこないものなのに、こいつは俺の目の前で何度もひらひらと舞いながらいつまでもここに留まっている
まるで俺に何かを訴えるかのように
「……ついてこいっていうのか」
言葉など通じるとは思えないがぽつりとそんなことを呟くと蝶は大きく羽根を広げてそのままどこかへ向けて飛び始めた
あまりに非科学的だ。蝶々が別の意思を持って人を誘うなんてこと、普通ならありえない
……だが……
「………っ」
俺は自転車を力いっぱい漕ぎ出せるスピードでもってそいつの後を追った
これで何もない、ただの気のせいならその時はそれみたことかと思い切り自分を笑ってやればいい
でも、そうでないのなら……
向かう先にあるのは市場、椎名のマンションはその先だ
通行人にぶつからないよう、道案内を見失わないよう気をつけながら俺はひたすら自転車を漕いだ
「おい、どこ連れていく気だよっ!」
椎名のマンションの近くまで来たところで蝶はぐるりと進行方向を変え、横道に逸れ路地裏の方へと向かっていく
こんなに狭くては自転車も漕ぎづらいと仕方なしに入り口に停め、いつ何が起きてもいいようにと傍らの警棒に手をかけた
ただの巡回だったから流石に銃は持ってきてはいない。使う事態にならないことを祈りながら俺は早足に先を急いだ
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