Jigokudo
□notice!
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「リョーチンは知ってるか?椎名の…」
椎名本人には聞こえないように気をつけながら声を潜めててつしは一番近くで自分たちのやりとりを見ているであろうリョーチンに思い切って聞いてみた
が……
「……教えてやんない」
「え?!なんで?!」
「なんか腹立つから」
「なんだよそれ?!」
「二人ともうるさい。何?」
「「なんでもない!!」」
そんなやりとりの末、おやじにうるさいから帰れと半ば追い出されるようにして帰るその帰路で、椎名はなぜかリョーチンの手を引きてつしには何も言わずに帰ってしまった
先程仲間はずれみたいな形になってしまったのを怒っているのだろうか?
そんな形で椎名を傷つけてしまったのかと思うとてつしの胸に小さな罪悪感がのしかかってくる
「明日謝るかぁ…」
ぽつりと呟いててつしは自分の家に向けてとぼとぼと歩き出した
その頃、児童公園への道を歩きながら椎名は無表情のままそっと尋ねた
「てっちゃん、なんの話してたの?」
「え?」
「俺には…言えない話?」
乏しい表情ではあったがリョーチンにはわかった。不安でいっぱいのそれだ
「椎名って色んな表情するんだなーみたいなこと言ってたけど」
「へ…何それ…」
「本人目の前にして言ったら怒られるとか思ったんじゃない?」
「…別にそのくらいじゃ怒らないし」
不貞腐れたように呟いてみせるが、それでも椎名の表情には安堵のそれが滲んでいる
そんな彼の表情にリョーチンは若干呆れながら「暗くなるから帰ろう」と言うと椎名は小さく微笑んでこくりと頷いた
(本当腹立つよなぁ…)
他人より
自分より
特別に思われているっていうのに知らぬは当人ばかりなり
少しの腹いせを込めてリョーチンは傍らで歩く椎名の手を掴んできゅっと握り締めた
「リョーチン?」
「へへっ」
いたずらっぽくニカッと笑むと突然のことにわずかに戸惑った椎名も釣られて笑みで返した
はやく気付け
まだ気付かないで
二人の間でゆらゆら揺れる手のように、少しの意地悪と微かな願いを胸に
傍観者は、静かに笑う
おしまい