Jigokudo
□Don't touch my dear!
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「てっちゃん!」
「心配すんな、椎名はオレ達と誕生日祝うんだからなっ」
そう言って少し遅れそうになった椎名を支えるようにてつしの右手が椎名の左手を握りぐっと引いた
その力強さに椎名はこくりと小さく頷いて二人に遅れぬようにと両足に力を込めて走り出した
「なんやねんなまったく…汗かくの嫌やねんけどなぁ…」
慌てて走る様子もなく、目的地の目星がついているのと足のリーチの長さの余裕からのんびりと三人の後を歩いて追う暁を時々見遣りながら三人はただひたすらに地獄堂を目指した
そこに何かしらの突破口があると信じて
そうこうして地獄堂近くの直線を走っていた時だった
不意にハッとしたように椎名が表情を変え……それはやがて勝利を確信する笑みへと変わる
「……椎名?」
「どうやら運はオレ達に向いてるみたいだ」
くっくっと笑って椎名は言った
その言葉の意味をそのすぐ後に二人も思い知ることとなった
地獄堂のたてつけの悪い硝子戸を勢いよく開けた三人の目に飛び込んできたのは漆黒
夜の闇をそのまま纏ったような真っ黒なスーツに同色の伸びっぱなしの艶やかな髪を一本に括った後ろ姿、そして傍らには神剣天臨丸とシンプルに白一色の包装紙とリボンでラッピングされた小さな包み
「蒼龍!」
椎名の声に情けなくもびくりと肩を震わせながら彼が振り返る
やや緊張気味にしながらもいつものようにやぁ、と軽く手をあげて挨拶をしてから傍らの包みを手にとって彼は差し出した
「裕介君、今日は君が誕生日だと聞いて…その……「蒼龍」
蒼龍には悪いが今は呑気にそんな言葉を聞いている余裕はなかった
椎名は彼の腕をがっと掴んで立ち上がらせるとそれはそれはかわいらしい笑顔で囁いた
「ありがとう、蒼龍。オレすごく嬉しい」
「裕介く…」
「でもね」
椎名は店の入り口の方に彼を押しやるとこれから起こることを知りつつも無情に言い放った
「プレゼントよりもあれを何とかしてきてくれる方が嬉しいかな」
「え……」
「ごめんくだ……蒼っ龍ーーーーっ!!」
「ギャアァァァァッ!!」
案の定蒼龍を見た途端矛先をそっちに変えた暁がばっと飛び掛かってくるのをギリギリで避け、蒼龍は撃ち出された弾丸の如く店を飛び出していく
そしてその後を追尾弾のように暁も続いて出ていった
「やれやれ、うるさいことだのぅ…」
店のいつものカウンターでは、ガラコを膝に乗せ心底迷惑そうに呟くオヤジの姿があった…
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