拍手、有り難うございます。


今回の小話は又もや小話詰め合わせでpart3。
やっぱり軽い学園ラブコメです。


あとがき含めて全部で5ページ。


気を付けてはいますが誤字脱字がありましたらご容赦下さい。
発見次第、訂正します。


少しでも楽しんで頂けたら幸い。















『どうにもならないけれど、どうにかしたい。』





「…………。」



リョーマはただ黙々と通学路を歩いている。

陽もすっかり落ちた午後7時。

街灯が照す薄暗い住宅街を自宅に向かう足取りは何処か荒々しい。










『………大丈夫か?』

『す、すみません!!有難うございます!』


部活終了後、忘れたプリントを取りに校舎に戻ったリョーマの目に飛び込んで来たのは、職員室に程近い階段で抱き合う男女の姿。

聞き覚えの有る声と見覚えが有りすぎる後ろ姿に驚いて凝視する。




〈竜崎と………部長??〉



それは彼が憎からず想っている彼女と、この類いでは完全ノーマークだった鉄面皮?男テニ部長との予想外な接触場面。

彼女は危なげ無く支えられ、部長の逞しい腕が彼女の華奢な肩を抱き、彼女の白い指先が部長の制服を掴んでいる。




〈…………っ!!〉


二人が密着する姿を目の当たりにして酷く衝撃を受けたリョーマ。

ほぼ反射的に状況を確認し、床に落ちている桜乃の鞄とラケット、そして散らばるプリント類から、階段から足を踏み外した桜乃を偶々通り掛かった手塚部長が助けたのだ、と理解する。


状況を分析すれば邪推の余地は全く無い。


が、しかし冷静な状況分析は出来ても感情は波立ったまま、ただでさえ鋭いリョーマの瞳はギラリ、と剣呑さを増した。

沸き上がる不快感を精神力で押さえ込み、爪が食い込む位ギリギリと手を握り締める。

そして、二人の側に駆け寄りたい衝動を感じながらもリョーマの足は動かない。

蛍光灯の灯りが届かない場所で、仁王立ちしたまま睨むように二人を眺めた。







見られている事に気が付いていない手塚部長と桜乃は、ぎこちない動きで体勢を整え、漸く身体を離す。




『すみません!すみません!本当にごめんなさい!!ご迷惑おかけしました!!!』

『………………怪我は無さそうだな。』



安全な階下に足を付けるや否や、みつあみが跳ね上がる勢いで何度も頭を下げる桜乃に無愛想ながら二言三言応える部長。

必死に頭を下げながら足下に散らばるプリントに気が付いた桜乃は、自分の鞄より先にそれらを拾い集め、手塚部長に差し出した。
(桜乃の鞄とラケットは部長が既に収集済み)

プリント束は桜乃の手から部長の手に渡り、彼女の鞄とラケットも無事持ち主の手元に戻って来た。



桜乃はコッソリと安堵の溜め息を落とした後、恐る恐る顔を上げる。

恥ずかしそうな素振りで手塚部長と目を合わせると、はにかむ様な極上の笑顔で“有難う御座いました”と告げた。





「…………っ!!」


桜乃の笑顔を目にしたリョーマは、弾かれた様に勢いよく踵を返し、全力でその場から逃げ出したのだった。


………そして、現在に到っている。




〈………なんでオレ、こんなにイライラしてんだろ。〉



疑問系で自身に問い掛けてみるリョーマだが、本当はちゃんと自覚している。

ただ、あまりにも格好が悪くて認めたく無いだけ。





理由1、躓いた桜乃を助けられなかった事。

―――彼女を助け、守るのは自分だけでありたいと願うリョーマにとって先程の出来事は失策であった。


理由2、自分の小柄な身体では、あんな風に桜乃を支えられないと思い知らされた事。

――――現時点で彼女との身長差はゼロ。今すぐ+20p!!と思わずにはいられない。たった二年の差をこんなに恨めしく思ったのは初めてだ。


理由3、何より一番苛立つ理由は桜乃が手塚部長に見せたあの笑顔。

――――アレは彼女を守る自分だけが見る事が出来る特別報酬であるべきだったのに。





〈…………アイツ、絶対に解ってない!!〉




桜乃がみせる笑顔はどれも可愛い。
(少なくともリョーマはそう思っている)

中でも恥じらいと気遣い、そして感謝を込めた日本人女性らしい柔らかい笑顔は特別。

そんな特別な笑顔を自分以外の男に見せるなんて。
(しかも至極間近に)




桜乃が笑顔を浮かべた時、あの無愛想な部長の口許が僅かに緩んだのをしっかりと目撃した。

しかも、あの身長差なら手塚部長が見た笑顔は、自分が経験した事の無い“上目遣いの笑顔”だったのは間違いない。





〈……………あんなに易々と、笑顔なんて向けるなよな………はぁ。〉



盛大な溜め息を落とし、家路を急ぐ。

そんな王子様の後ろ姿が、らしくない程寂しげだった事は夜空に輝く一番星以外、誰も知らない。





→何番煎じが解らない身長ネタ。今回は+α。自分だけの特権を簡単に奪われて凹んでいます。



Next→


宜しければヒトコトお願い致します。



[TOPへ]
[カスタマイズ]

©フォレストページ