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□籠
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私には蔵という彼氏がいる。
私は蔵が大好きだ。
蔵の全てを受け入れ、愛している。
ただ、蔵には1つ困ったことがある。



「なぁ、悠。ちょっとええか?」


「うん、いいよ」



蔵に呼ばれて、今は使われていない空き教室へと向かう。
蔵に呼ばれた時はたいていここに来る。



「どうしたの?」


「さっきお前、謙也たちと話とったやろ」


「…!あれは数学の宿題の話で…ほら、忍足くんって数学得意じゃん?」


「数学得意な奴なんて他にもおるやろ」


「そうだけど…」


「お前、俺より謙也が好きなんか?」


「違うよ!私は蔵が好き!蔵だけが好き!!」


「なら、もう俺以外の男子と話すんやないで?」


「…うん」



―そう。
蔵は私が男子と話しているとすぐに嫉妬する。
いわば、独占欲が強い。強すぎる。
それだけ私を好きでいてくれるのは嬉しいんだけど…。



それから授業中も蔵のことを考えていて、授業なんか耳に入らなかった。



「朝比奈!」


「あ…忍足…くん」


「お前、今日日直やったよな?」


「うん…」


「これ、名簿。理科室に忘れとったで」


「あ…ありがとう」


「おん」



蔵のことを考えていたら忘れてしまったらしい。
気付かないほど考えてたっけ…。
それはそうと、さっき忍足くんと話していたの、蔵に見られてなければいいんだけど…。



「なぁ、悠」


「…!…何?」


「ちょお、こっち来てくれへん?」


「…うん」



蔵に言われて空き教室へと向かう。
嫌な予感しかしないんだけど…。



「お前、また謙也と話しとったやろ」


「あれは…私が理科室に忘れてきた名簿を持ってきてくれただけで…」


「どんな理由があろうと話したんに変わりはないで」


「そ、それは…」


「この前も言ったよな?俺以外の男子と話すなって」


「…うん」


「言う事を聞かない奴にはお仕置きせんとなぁ…」



そう言ってズボンのポケットから果物ナイフを取り出す。
私を壁に押し付け、ナイフを私の頬にあてる。
鈍い痛みと共に、鮮やかな色をした血がナイフから滴り落ちる。



「…っ!」


「素直に俺の言う事聞いていれば、お互い傷つかずに済んだのになぁ…」



私は恐怖を感じ、蔵から逃げようとした。
でも、やっぱり、蔵は逃がしてくれなくて。



「俺から逃げようとするなんて、そんなに俺が嫌か?」


「嫌じゃない!嫌じゃないけど…でも…」


「もっとお仕置きされたいみたいやな…」


「…!」



その日、私は蔵から逃がしてもらえなかった。
蔵を好きでいる限り、私に自由は訪れない。
今日も私は、『蔵』という名の籠に閉じ込められたまま。





(逃げようとはしないから)
(せめて、自由を下さい)


End.


→後書き


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