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□其処にいてくれて
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「なぁ、財前。お前、自分で生意気やとは思わへんか?」



それは、唐突な問いだった。



「別に…思てませんけど」


「そうか。なら、俺らが教えたるわ。お前…生意気やねん!」



あぁ、またか。
先輩たちに呼び出されてぐちぐち言われるのは慣れている。
今回も適当に流しとくか…。



「はぁ…すんません」


「俺らが言いたいのはそれや。先輩に対して、その口のきき方は何なん!?」



…手を出すのは反則やと思います。
まぁ、言わへんけど。
ここは素直に殴られといた方がええのか?


先輩たちの手が俺に向かって振り下ろされた、その時―。



パシッ!



―その手は誰かによって掴まれた。



「あんたら、光に何しようとしてんの?」


「…悠さん!」


「さっきから話聞いてたけどさぁ。別に生意気だっていいじゃん。それが光なんだから」


「こいつ…っ!」



先輩が手を振り上げる。



「危な…っ!」



パンッ!



乾いた音がその場に響いた。



「悠…さん…!」


「………」



悠さんは無言で先輩たちを睨みつけている。



「な、何や…」


「別に、あたしはどうなったっていいけど。でも、光だけは傷つけないで」


「な…この女…っ!」



先輩がまた手を振り上げる。


悠さんは何度叩かれても俺の前から逃げようとしなかった。


俺はといえば、ただ見ていることしか出来なくて。
そんな無力な自分が情けなくて、悔しくて。
俺も悠さんを守りたいのに―。



「…女子相手に本気になるなんて、先輩たち、ダサすぎっすわ」



やっと絞り出た言葉がそれだった。



「くっ…。き、今日はこの辺にしといたる。覚えとけよ…っ!」



いかにも悪役っぽいセリフを吐いて、先輩たちは逃げていった。


俺は先輩たちを尻目に、悠さんに駆け寄った。



「悠さん…!」


「光…。怪我は…無い?」


「…っ!あんた、アホやろ!俺の心配するより、自分の心配せぇ!!」


「あたしは大丈夫だって」


「あんたは、自分の大切さをわかっとらん!あんたが…悠さんがいなくなったら…俺は…」



そこまで言って、口をつぐんだ。
俺の頬を生温かいものが伝っていたから。
ありえへん、ありえへん。
悠さんの前で泣くなんて…。



「…大丈夫だよ。あたしは光の前からいなくなったりしないから。…絶対に」



その言葉に安心した。
悠さんのその言葉で、こんなにも安心するなんて。



「…悠さん」


「うん?」


「…有難う」



聞こえるか聞こえないかぐらいの小さな声で、そう呟いた。


俺を見つめる悠さんの顔には、眩しい笑顔が広がっていた。




其処にいてくれて

(其処にいてくれて、有難う)
(今度は俺が、)
(あなたを守ります)


End.


→後書き


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