宝物
□面目躍如
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「僕にも頂戴」
唐突だった。
訳が分からず無意識に眉を潜める僕に、そうさせた当の本人は目を細めていた。
「何のこと?」
「闇の印、僕にも頂戴」
図書館に声が響く。
人の気配の有無を確認する僕を見て、クスリと笑い自らの杖を指で弄ぶ。
余裕のある態度から、人避けの呪文を既に使っていたことが分かる。
思わず舌打ちが出た。
「どこで知った…」
「『リドルと仲が良いんだしお前にもこの印があるんだろ?』って見せつけられちゃったんだよ…。」
いかにも残念そうな顔をすると、ムカついたから少しお仕置きしちゃった…どんなのか聞きたい…?と直ぐに怪しげな笑みを浮かべる。
…この話題には敢えて触れないでおこう。
「何で僕にはくれないの?」
机に腰をかけ、僕を見つめてくる。
その指は僕の顎に添えられ、視線が合うように固定されていた。
「じゃあ逆に問おう。何故そんなに欲しい」
話の主導権を握られないよう、問い返す。
相手からの返事は速いものであった。
「僕がリドルを沢山想っている分、その気持ちに応えてくれるものが欲しい」
馬鹿な。
確かに気に入った者に闇の印を与えている…しかし所詮これは相手を利用しようとする悪意の籠もったものだ。
僕に対する強過ぎる想いに印の本質的な意図に気付かない者は多い。
だがこの男は馬鹿ではない。
印の意図が分かる筈だ。
分かるなら何故こんなものが欲しい。
僕には理解出来なかった。
「理解出来ないよね」
「………」
開心術を使われた訳でもないのに思っていた事を口に出された。
微かに動揺する。
相変わらず愛想良く笑うコイツは気付いただろうか。
否、気付いたに違いない。
コイツの僕を真似た口調や行動が今程ムカついた時はない。
「……あげるよ…」
「本当?」
杖を取り出した僕に少し嬉しそうな顔をした。
それはコイツ自身の笑みであって真似られたものではない。
僕には分からない。
僕を想うコイツの感情が分からない。
そしてコイツを傍に置いておこうとする自らの感情も分からない。
相手の腕に杖を宛てた時、小さく呟く声が聞こえた。
…敢えて聞こえていなかったことにしよう。
─「君の傍に居る誰よりも君の特別になろう」─
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