短編

□優越感
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個性の強い面々で溢れたこの寮の中、リドルは一際目を引く存在だった。

多くの取り巻きに囲まれた彼はいつも微笑んでいて、そんな彼に取り巻き達はもっと虜になっていた。






「…〇〇、また階段から落ちたのかい?」


読んでいた本から僕の足へと彼は視線をずらした。

リドルは呆れたような口調で言い、微かに血の流れる僕の足を見た。
普段の彼は猫被りでいかにも優等生だが…今は全く違う。

少しくらいみんなが居る時みたいに優しくしてもいいんじゃないか、と思うがこれも彼の素の表情な訳なのだから複雑な気分だ。


「うん、ごめん。」


「まぁ…いいけど…」


しかしそれでもリドルは優しい。
嫌な顔をしつつも結局は、僕が怪我をすれば医務室にちゃんと連れて行ってくれる。
今だって、本を閉じて医務室へと向かってくれているのだ。

頭のいいリドルだし、もしかしたら気付いているかもしれない。


僕はよく転ぶ理由を。

…理由は、僕が鈍臭いからという訳ではない。
リドルの傍に僕が居るからだ。

性格、ルックス、成績、スポーツにおいてもリドルはそれらに恵まれている。


そんなリドルが老若男女問わず皆に好意を持たれているのは当たり前であり、そんな彼の傍にいる平凡な僕に嫌がらせを仕掛けてくる奴らが居てもおかしくない。

それでも、怪我をしても僕は彼の傍に居たかった。


リドルのような人望の厚い人の隣に立っているというのはとても心地良い。
何とも言えぬ優越感を感じるのだ。

怪我は治るし、この心地良さを捨てるなんて僕には出来ない。



「…何を考えてるんだい?」


「…何も?」


階段を登る最中、リドルは立ち止まった。
リドルの隣に居る理由、だなんて言える訳がない。


「……ふーん…」


目を細め、あからさまに不機嫌になる。
僕はと言えば表情を変えずにリドルを見つめたままだ。

あ、これも嫌がらせにあう原因かも。
僕に愛想なんてないからな。

腹の内ではそんなことを考えつつも、やはり無表情のままだった。


「………」

「リドル…?」


別に気にしなくていい、と言おうとした前に手を引かれた。
バランスが取れず驚いてリドルを見た時には背に壁があった。


「……どうして怪我ばかりをしているか、本当は知ってるんだ…」


間近にある端正な顔に全身の神経が研ぎ澄まされた。

赤く輝いた瞳。
この距離、彼のファンが見れば悲鳴を上げ倒れるだろうと思う。


「…へぇ…」


だからどうしたのとでもいうような僕の態度に、リドルは眉を潜める。

ホント、プライドが高いよね。

思わず微かに笑みが零れ、リドルは暫くそんな僕の顔を睨むように見て離れた。

無言で歩き出したことからまた医務室に向かっているのだと分かり、その後を着いていった。


行く間、始終無言だった。




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