アザレア

□幼いアザレア
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─Verbena─



森に囲まれた大きな屋敷

そこには外部からの干渉を防ぐ為に、幾重もの魔法がかけられており、そのせいか屋敷は通常のものより薄暗く怪しい雰囲気に包まれていた。

そんな屋敷の庭に、6歳程であろう幼い少年が花に水をやっている姿が見えた。


髪は艶のある黒で、瞳は潤んだ紅。
精巧なパーツで作られたその容姿は陶器のように白く滑らかで、彫刻さながら。

少年の長い睫毛は頬に影を作り、瞬きをする度に重々しく動き、その愛らしい瞳は愛しそうな眼差しで目前の花を見つめ、慣れた手つきでシルバーのじょうろを傾けては水を与えていた。


少年が花に水をやっているだけ、ではあるが
周りに居る死喰い人達はみんな、ぼんやりとその様子に目を奪われていた。



「アルト様、我が君がお呼びです。」


「…わかりました。」



そんな中、屋敷の中から出てきた死喰い人が少年──アルトに向かい頭を垂れた。

傍から見れば不思議な光景ではあるが、周りや当事者はどうやらそれに慣れているらしく、何に動じる訳でもなくアルトは首を小さく縦に振り年齢の割には少し大人びた返事を返した。


アルトは先程の穏やかな表情から一転変わり、眉を下げ少し残念そうな顔をしため息をついた。



「…水をまだやり終えてないのに…」



大方呼び出され何を言われるかは検討がついているのだろう。
仕方ないか…と呟いては屋敷の中へと歩いて行く。

しかし残念そうにしていた顔もこの時にはもう微笑みに変わっていたのだった。




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