それでも息を、していたい。

□side:Ludger
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『ーーーー精霊?』


初めて見た。


その“せいれい”と言う四文字にはっきりとこもった敵意。

綺麗に整った幼い顔立ちがぎゅーっと眉を釣り上げ、きゅっと口をへの字に曲げて結ぶ。

お世辞にも怖いとは言えないそれはまるで子どもが怒りのあまり悔しがるような顔だ。

そんな顔であったとしてもルドガーは驚いた。

それは初めて見るということももちろんあるが、リドウにそんな顔ができると言うことに驚いた。

ルドガー自身が姉と慕い、そのうち本当に姉になるであろうリドウとはそのよくいえば温厚、悪くいえばめんどくさがりな性格をしている。

だからそんな敵意を向けるような顔ができることに驚いた。

普段のリドウであれば感情を出す前におそらくだが“めんどくさい”と出すのをやめているはずだ。

と言うかルドガーの知る限りリドウは“そういうことができない人”のはずなのだ。

そう、例えば今共に行動しているジュードや、レイアの様に。

矛盾した言葉にはなるが“何をしても怒るけど怒らない人”なのだ。
なんと言うか、怒りが持続して憎しみにならない人なのだ。

だからこそリドウがまるでエルやエリーゼの様な“怒り方”をしたのには驚いた。


まるで『精霊なんて大嫌い!近寄らないでよ!あっち行って‼』と書いてある様な顔をしたのに驚いたのだ。


何を言っているかわからないかもしれないがルドガー自身もあまりよくわかっていない。

盛大に混乱している。

一人でもんもんと考えていて、だからこそ、唐突に前振りも無く口に出してしまう。

「姉さんはーー、さ…なんか、なんと言うか、あんな顔、する人じゃないんだよ。」

ルドガーが唐突に出した言葉に仲間達がいっせいにルドガーを見る。

ルドガーはしまった口に出すんじゃなかったと思ったが出してしまったものは仕方ない。

そのまま続けて口にするが曖昧な言葉を並べたあとに結局堂々巡りでずっと考えていた言葉が出てきてしまう。

「……だから?」

ミラが鬱陶しそうに怪訝な顔をして言う。

全くもってその通りだ。だからどうした、だが、ルドガーにもよくわかっていないのでどうしようもない。

「あー、でもなんとなくわかるぜ、俺。」

アルヴィンが唐突になんでもないようにそう言う。

「おたくのお姉さん、ジュード君やレイアと同じタイプだろ?」

アルヴィンが続けてそう言うといきなり話にあげられたジュードとレイアが「えっ?」と驚くがアルヴィンは続ける。

「だから、ルドガー君はあのお嬢さんがあんな顔をするような何かがあって、それが気になる、と。」

アルヴィンにそう言われて初めてそうだったのかと気づく。

「エル知ってる!そう言うのヤジウマコンジョーって言うんだよね!」

「ほほほ…そうとも言いますね。」

エルが身も蓋もないことを言ってローエンが笑う。

ルドガーはアルヴィンの発言に納得しつつもやはりまだ混乱した頭で口を開いた。

「アルヴィン、リドウ姉さんはあれでも29歳なんだ。」

「「「「「「えっ!」」」」」」

「…やっぱり全員だよな。いや、わかってたけど。」

「マジかよ⁉姉さんだからルドガー君よりは年上だろうとは予想してたが…」

「…僕だってそれは予想してたけど、リドウさんってぶっちゃけ僕のひとつ上ぐらいでも通用するような…」

「ジュード、私にはリドウさんはジュード達とおんなじように見えますよ。」

「エルもそう思う!」

「ジュード、エリーゼ、エル、それ、絶対リドウ姉さんには言うなよ。姉さん気にしてるから。」

「いやはや、世界は広いですねぇ…」





ルドガーにヴェルから「ユリウス前室長がリドウ現室長を人質に取り、カナンの道標を持って逃走しました」と連絡が入るのは数十秒後である。

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