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「カムイ!そこを退け!」

「嫌だ!どうしてだマークス兄さん!もうこの人達に戦う力は残っていないのに‼︎」

見事白夜の捕虜を打ち負かしてお父様に力を示すことのできたカムイ兄さん。
だが、正直予想できたのだが、捕虜の命までを奪うことにカムイ兄さんは反対した。
お父様の命令でマークス兄さんが代わりに捕虜を殺そうとするのを間にカムイ兄さんが入って庇う。

あぁ、二人ともこういうところが頑固で真面目で、融通がきかないんだから。

「そ、そんなぁ…お、お兄ちゃん…」

「あぁ…そんな…やめて、カムイ…!」

今にも泣き出しそうなエリーゼとカミラ姉さんを見て、あぁ、全くこの人たちは2人にこんな顔をさせて…と軽い怒りまで湧いてくる。
本当、融通がきかないんだから。
私がしっかりしないとね。

そう、兄さん達の性格を考えれば、こんなこと予想できたのだから。
対処法ぐらい考えて来ている。

『まったく…本当に仕方ないんだから。』

カムイ兄さんの後ろにいる捕虜達にブリュンヒルデを放った様に見せかけ、発動させたブリュンヒルデの陰になるように、うまくワープの書を使って捕虜を地下牢に転移させる。

「なっ、ナナ‼︎」

『お父様、不出来な兄に代わり、見事に私が捕虜を仕留めて見せました。いかがでしょうか?惰性に北の城塞で過ごしていた兄より、私の方が優秀でしょう?』

ひとまず、声を荒げるカムイ兄さんを無視して、お父様に優雅に一礼をする。“未熟なくせに構ってもらえる兄王子に嫉妬して、自分の優秀さを自己顕示欲で父に見せつける妹王女”を装って。
お父様にはこの方が受けがいい。

「ふん、相変わらずナナは優秀だな。よく出来たワシの娘だ。」

『お父様…!ありがとうございます…‼︎』

「もうよい。ナナ。この場はお前に任せるぞ。」

『はい、このナナにお任せください。』

後ろを向いて場を立ち去るお父様に優雅に一礼する。

「ナナ!」

『しっ!』

「…、?」

お父様がこちらを見ていないのをいいことに人差し指を口に当て、カムイ兄さんに静かにするように合図をする。
納得いかないような顔をしながらも、とりあえず黙る素直さは兄さんの長所だ。

お父様やマクベスが立ち去ったのを確認してカムイ兄さんとマークス兄さんを呆れた目で見る。

『まったく。カムイ兄さんもマークス兄さんも融通がきかないんだから…』

「融通とかそういう問題じゃないだろう!何も殺すことなんて…‼︎」

『殺してないよ。』

「えっ、」

『魔法でとどめをさした風に見せかけて転移させたの。ちゃんと無事よ。』

まぁ、後の処理のことを考えると殺した方が楽ではあったんだけど…

私の言葉を聞くや否やパァッと顔を明るくしたカムイ兄さんが感極まったように抱きついてくる。

「ナナ〜‼︎お前ってやつは、お前ってやつは…!なんてできた妹なんだ!世界一かわいい妹だ‼︎」

『ちょっ…もう、兄さん!』

「お兄ちゃん私は私は〜?」

「エリーゼも世界一かわいい!カミラ姉さんは世界一美人だし、マークス兄さんだって世界一かっこいい!」

「わーい!」

「ふふふ、もう、カムイってば…」

「ふっ、まったく、お前達は騒がしいな。」

飛び跳ねて喜ぶエリーゼに、穏やかに笑うカミラ姉さん、嬉しそうにしているマークス兄さん、そして何よりカムイ兄さんの無邪気な笑顔。

この時はこれでよかったと思った。

後から、このことをひどく後悔するとは知らずに。

そう、私は冷酷であるべきだったのだ。


******


「僕は、白夜の側で戦う。」

何を言っているのかわからなかった。
なんで、どうして兄さん。

激情に任せて白夜の第一王子に斬りかかるマークス兄さんは距離があって無理だけれど、ひとまず動揺するカミラ姉さんとエリーゼを落ち着けて、戦況を把握するために辺りを見渡す。

兄さんが居たから、本来の持ち場を離れて駆け寄ってきてしまったため、近くにゼロとオーディンが居ないのに寂しさを感じつつ、白夜の側を見て、ひどく動揺する。

あちら側の軍にいるのは白髪の鬼人の女と、緑髪の忍の男。

自分の顔から血の気がサッと引くのがわかった。


失敗した、失敗した、失敗した‼︎
これ以上ないまでに!
一番、最悪な方向に‼︎

兄さんが白夜王国の王子。
それはなんとなく納得できる。
確かに、闇夜での兄の扱いに違和感があったのだから。

しかし、きっとおそらく、白夜王国側は最近まで兄さんの生存すら知らなかったろう。
だって文字通り兄さんは北の城塞から一歩も出なかったし、何よりこのタイミングだ。


間違いない。一番のヘマを踏んだのは私だ。
全て私の責任だ。
そう、あの時、白髪の鬼人と緑髪の忍を逃した私の。
どう考えてもここから情報が漏れたとしか思えない。

あの時、あの時こそ、たとえ兄に嫌われたとしても、私は冷酷であるべきだったのだ。
全ての、そもそもの原因を生んだのは私だ。
兄さんが今白夜にいる原因を作ったのは私だ。

兄さんの身元がわかった上で、兄さんに対して何かしらを吹き込んだに違いない。
きっと白夜王国のいい面だけと、闇夜王国の悪い面だけを、兄さんが知らないのをいいことに吹き込んだのだ。
でなきゃ、兄さんが闇夜を裏切らずをえない状況に持って行ったのだ。
じゃなきゃ兄さんが私達を裏切るはずがない。
血の繋がりがなんだ。
私たちきょうだいはもともと全員半分しか血が繋がってないんだから、カムイ兄さん一人ぐらい血が一切繋がっていないとしても問題ない。
大事なのは一緒に過ごすためのきっかけだ。
きょうだいという共通点があって私たちは出会った。
そこから一緒に過ごした時間は嘘じゃない。
そう、きっかけが大事なのだ。
兄さんが白夜にいるそのきっかけを作ってしまったのは他でもない私だ。

そう、私すら動けなくなっていると、あちらから攻めて来る。
エリーゼをさらに後ろに下がらせ、白夜の第二王子の矢を避けながらカムイ兄さんに近づく。

『兄さん!』

「ナナ…!」

『お願い!兄さん、戻って来て!大丈夫、今なら私がなんとかするから…!お願い…‼︎』

私がそう叫べば、兄さんが周りの白夜兵に、一旦攻撃をやめるように言う。

「ナナ!兵を引かせてくれ!」

『兄さんが帰って来たらね!今マークス兄さんは激情に任せて攻めてるから、目的が白夜侵略から兄さんの奪還に完全にすり替わってるから…!』

「卑劣な手を使ってミコト女王を殺害しておきながら随分な物言いですね。」

『黙れ!お前とは話してない‼︎』

横から会話に入ってくる緑髪の忍に苛立ちのまま怒鳴りつける。お前と白髪の鬼人さえ居なければ。
あぁ、冷静でなきゃいけないのに。

「話を聞いてくれ!ナナ!ガロン王からもらった剣が爆発したんだ!その爆発から俺をかばった母上が…‼︎」

『剣が、爆発…?』

「…!そうなんだ!信じてくれ、ナナ‼︎」

私が話を聞いてくれたと思ったのか、兄さんの顔がパッと明るくなる。
が、私はこれで確信した。

『なるほど…洗脳だなんて、白夜も随分と卑劣な手を使うじゃない。』

「なっ、話を聞いてくれナナ!僕は操られてなんかない‼︎」

『あのね…兄さん。こんな短期間に色々あったら混乱するのも無理はないけど、冷静になって、よくきいてね。』

「う、うん…」

『…剣は爆発しないわ。』

「………。」

『…なに?』

カムイ兄さんの命令で一旦攻撃を止めて、私と兄さんの会話を聞いていた白夜兵までぽかんとした顔で私を見る。

「…はっ、い、いや、そうなんだけど!普通剣は爆発しないんだけど!でも爆発したんだ‼︎」

『だから兄さん、剣は爆発しないわ。サンダーソードですら暴発はしても爆発はしないんだから。』

「そうなんだけど、そうなんだけど…‼︎ば、爆発したから、爆発したとしか…‼︎」

「…ねぇ、いつまで人形姫とバカみたいな会話続ける気?」

白夜の第二王子がわざわざ“人形姫”と言う固有名詞を使って言う。
間違いなく喧嘩を売ってきている。
“人形姫”というのは第二王女である私を“お飾り”という意味で呼ぶ蔑称だ。

苛立ちのまま思わずブリュンヒルデを第二王子に放つ。

「うわっ、なにするんだ!この…‼︎」

「タクミ!やめてくれ!ナナも‼︎」

『兄さんが帰ってきたらね。エリーゼも、マークス兄さんもカミラ姉さんも悲しんでる!』

ブリュンヒルデを慌てて避けた第二王子が弓を引くが、兄さんがそれをとめる。

「っナナ様!」

「ナナ様ぁ!ご無事ですか⁉︎」

『ゼロ、オーディン…!あなた達、持ち場は…』

「すみませんナナ様、緊急事態なのでこちらに来てしまいました。」

「マークス様が深手を負ってしまって…!ナナ様もこの場はひとまず撤退を…‼︎」

『なっ、そんな…!まだ兄さんが…‼︎』

駆けてきたゼロとオーディンにそう言われるも、未練がましく兄さんを見る。

「ナナ、退いてくれ。」

『そんな、兄さん…‼︎』

「ナナ様、どうか…」

「ナナ様!退きましょう!」

『っ、…わかった。』

私がそう一言言えば、あからさまにホッとした様子を見せるゼロとオーディン。
うん、本当は退きたくなんてないけど、これが正解だ。

兄さん達の方は見ずに、馬を走らせて撤退する。
大丈夫、あの二人ならついてこれる。


******


「ふっ、我が主…夜空に瞬く星の金糸を持つ紅い宝石を瞳に宿した誇り高き姫君よ…イテッ、なにすんだゼロ!」

「悪いな、俺の右手が疼いてうっかりソッチに滑ってイッちまったんだ。」

「ったく……あー、その、ナナ様、お腹空いてませんか?俺、ちょうどお菓子持ってて…」

ある程度撤退したところで、気落ちしてる私を励まそうとしたのだろうオーディンが声をかけてくる。

本当なら、ありがとうとお礼を言ってお菓子をもらって、オーディンに気を使わせてごめんねと、笑いかけるべきだ。

だけど、もう限界だった。
ありがとうと言おうと口を開けば、堰を切ったように堪えていた物が涙と共に溢れ出てしまった。

「私の、せいなの…っ」

「なっ、そんな…‼︎カムイ様のことならナナ様は何も悪くないじゃないですか!」

「そうです。ナかないでください、ナナ様。」

「ううん、緑髪の忍と、白髪の鬼人…私が逃したあの二人から、兄さんの情報が漏れたんだわ。この状況を作ったのはまぎれもない私…!私は、私だけはっ、冷酷で、あるべきだったのに…‼︎」

「ナナ様…」

「ナナ様、あまり目を擦らないでください、赤く、腫れてしまいます。」

涙で歪む視界に映る悲しげな顔の臣下の2人を見て、あぁ、また間違えた、失敗した、と思う。
2人にこんな顔させたかったわけではないのに。
これは我慢しなければいけなかったのに。



私は、どうあるべきなのだろう。

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