企画部屋

□“幻の六人目”
1ページ/2ページ






「あー…。黒子っちに知られたらなんて言われるか…」

「黒子っち?」



随分と可愛らしい名前だな、おぃ。

…そもそもこいつのネーミングセンス、なんなんだおい。



今年から入ってきた後輩、黄瀬涼太。
キセキの世代と呼ばれている天才だ。


…普段のこいつ見てるとそんなこと忘れちまうけど。


「誰だ、それ」

「黒子っちっスよ!」

「だから誰だっつの!」

「スマッセーーン!」


いつも通りに蹴りを入れる。
なんなんだ、まったく。

今日はこいつにとって、初めての“敗け”だったらしい。
試合や練習試合のみでだけどな。



初めての敗けってなんだ!
納得…できなくも、ない。

 
「ったく…」




珍しく落ち込んでるから聞いてやれば、誰だ、黒子っちって。



「オレの元チームメイトっスよ!すごいんスよ、黒子っちは!」



チームメイトっつーことは、帝光バスケ部だったやつのことか。
…にしても、こんなに褒めるなんてなぁ…。




「…キセキの世代か?」

「…ん?一応キセキの世代っスよ」


―――…はぁ?一応ってなんだ。


それから語り出す黄瀬。
曰く、黄瀬の教育係だったそうな。
…おぃ教育係ってなんだ、教育係って。



なんて思ったが口に出すとめんどくさそうなので黙ることにした。

 
「…あ、黒子っち、こう言えばわかりやすいっスね」

「なんだ」


ぶっちゃけ話を聞いている限りなにがすごいのかわからん。
…と思っていたが、黄瀬の次の言葉にその考えが消えた。















「―――…キセキの世代、“幻の六人目”」
















「…はぁ!?」



実在するかわからなかった選手。


中学時代、敗け無しで、強さも桁が違ったキセキの世代。
その五人が唯一注目していた選手。




だが誰も名前を知らなかったし、顔も知らなかった。
次第にその話は嘘じゃないかと思われていたが…。



「ね?すごいっしょ!?」



キセキの世代のこいつがそれを、肯定した。

「…で、最初に言ってた、そいつに知られたらってなんだ」

 
そんなに恐ろしいやつなのか、そいつ。
敗けただけなのにか。




「怒られるわけじゃねぇスよ?今チームが違うからオレが敗けても関係ないス」

「…言ってることめちゃくちゃだぞ、お前」

「がっかりされんのがイヤなんス」

「がっかり?」






―――…そしたら黒子っち、オレに構ってくれなくなっちゃうじゃないスか。




ヘラリと笑った黄瀬から咄嗟に目をそらした。


なんでそらしたなんかわかんねぇけど、狂ってんじゃねぇか、って…そう考えた。






初めて見たこいつの暗い瞳を見たくなかったのかもしんねぇけど。


「だから、もぅ敗けらんねぇス」




すっと目を細めたこいつは誰だ。





「…そうか」


そう言えるのが、今の自分の精一杯だっつの。


 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ