企画部屋

□ただ、―――だけ。
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少年にとって、いつも通りの日常―――…“だった”。

なにかがいつもと違う、なんてことはなかった。
少年は、いつもと同じ様に起きて、

いつもと同じ様に挨拶して、

いつもと同じ様に朝から騒いで、

いつもと同じ様に元気一杯に修行のために山に向かって。



なに一つ違うことなんかなかった、“日常”。
なのに、なんで。



「―――…キ、ノ…?」



情けないくらいに弱々しい声しか出なくて、


「マキ、ノ…ッ!!」

その“現実”を受け入れられない“自分”がいた。




「マキノ!マキノッ!!」






















―――…異変に気付いたのは修行の帰りだった。
煙が、黒い煙が、自分の住む村から上がっていたのだ。

 
誰かの家で火事が起こったんだと思った。

大変だ!自分も手伝わなくちゃ!
幼いながらに正義感が強かった自分。



駆け出し、走った先に見たものは―――…




…燃え盛る炎と、髑髏(信念)の旗(証)。





目を、疑った。

「…あ、あ…」

言葉にならない声が口から出て、駆けていた足は縫い付けられたようにそこから動かなくなった。
そんな少年の耳に入ってきたの下卑た笑い声。



「おぃ!まだガキが生き残ってんぞ!」

「あぁ?まだ残ってやがったか」

 
耳障りな笑い声。


男たちは海賊だった。

汚いことばかりをして名を売っている海賊。



でも、少年は“海賊”に憧れていた。
未知なる海への大冒険はもちろんのこと、偉大な海賊、赤髪海賊団に憧れたからだ。


尊敬し、いつか立派な姿になって会おうと誓っていたのだから。


なのに、なんだ?これは。

俺が思う海賊は、“これ”じゃない。




「不運だったな、ガキ」

ニタリと、不気味に笑った。



「…あ、え…?」


わけがわからなくて。

助けて欲しくて。

でも声もなぜか出ないし、足も動かないし。



なんでかわかんないけど、無償に怖くて怖くて。




「じゃぁな」

海賊と思わしき男が振りかざした刀が見えて、逃げなくちゃって、そう思うのに思うように動かなくて。


 
思わず、目を瞑る。


力いっぱいに閉じた瞼。

―――…でも、いつまで経っても想像していた痛みはこなくて、代わりに、なにか温かいものに包まれていた。


恐る恐る目を開けると、見えたのは―――…紅(アカ)。


ちょっと黒くて、ドロリとした感触。



「―――…え、マキ…?」

それがいつも暖かな笑みをくれる女性だと気付いたとき、彼女は足元に倒れ込んでいた。



ドシャ…


「この女、生きてやがったぜ!」


「おいおーい、ちゃんと殺しとけよ」


 
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