企画部屋

□だから、けしたんだ
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自分に宛がわれた部屋で、息を殺すことを覚えた。

じっと踞り、息を殺す。
ギィッと、床の軋む音。


心臓が止まったような感覚に陥った。
本当に止まってしまえばいいのにと、何度思っただろうか。

カチャリと、閉じられたドアがゆっくりと開いて、薄暗い部屋に光が入ってくる。
眩しさに目を細めながらドアを開けた人物を見る。




「…おかえりなさい…」


ぽつりと、小さく呟き、小さく丸めた身体をさらに小さくしようと踞る。

無駄なことを。
頭の隅で、自分を嘲笑う声が聞こえた。



「―――…テツヤ…」



か細い、“母親”の声が聞こえた。




―――…あぁ、明日は学校を休まなくちゃ。

ふと、そう考えた。


 
「…どうしてなの…?」



ふらふらと、危ない足取りで歩いてくる。




またなにかあったのだろうか。









―――…僕の母親は心が弱い人間だった。
些細なことで心を病んでしまうような、そんな人間だった。


例えば近所付き合いが上手くいかなかったり。

例えば仕事がうまくいかなかったり。



大きなことから小さなことまで。
ぶつぶつと呟く母は、端から見たら怪しい人間なのだろうか。

ぼんやりと現実をみようとしない僕もまた、心が弱い人間なのだろう。



 
僕の前で座り込み、俯く母からは愚痴しか聞こえない。
逆恨みともとれるその呟きに相槌は打たないし、反応もしない。
ただただ、その母が持っている“痛み”を僕が受け止めるだけだ。



「―――…もう、イヤ…ッ!!」



バシッ!


ぐっと息を詰め、堪える。

大丈夫。慣れてる。
この痛みさえ甘受すれば、“母親”に戻ってくれるのだから。

洋服で隠れた肌には人には見せられないような痣がたくさんある。
ぼんやりとした思考でそんなことを考える。


振り上げられる腕に、怒鳴り散らす声。























―――…早く、終わらないかなぁ…。

 
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