企画部屋

□なにも、わからなかった
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―――…負けた。



ただその事実だけが、黒子の頭の中に浮かぶ。
I・H予選、かつての相棒・青峰との対決。

彼に勝つどころか、止めることすら敵わなかった。


『圧倒的な力の前では力を合わせるだけじゃ…』

『勝てねーんじゃねーのか?』




火神の言葉が、黒子の心を抉った。
それは中学時代対戦校から何度も聞こえてきた言葉だった。
“キセキの世代”を前にしてやる気を失う相手。

何点取れるか。

どんなプレーができるか。

“勝利”を諦めた相手を見るのが黒子は嫌だった。
ベンチから立ち上がり、反転した黒子は思わず動きを止める。
そこに、“彼”がいた。


「―――…よぉ、テツ」


先程対峙したばかりの、かつての“光”。

どうして、ここに。

滅多に変わらない黒子の表情が崩れたことに青峰は満足そうに笑った。
ずかずかと遠慮なく控え室に入ってくる青峰。
閉められたドアに、かけられた鍵。
それに気付かないほどに黒子は動揺していた。

 
「んなに警戒すんなよ」


クツリと、なにがおかしいのか、低く喉の奥で笑った青峰は一気に黒子に近付く。
気が付けば目の前には青峰が。
思わず身を固くした黒子の顎を片手で掴み自分に近付かせる。

空いている片手で身体を拘束して。
黒子の肩に掛かっていた荷物が床に落ちた。

「また、否定されちまったな」

「…え…?」


互いの息遣いがわかりそうな程に近い場所から言われた言葉を、黒子はすぐには理解できなかった。


―――…“否定”、そうだ。
自分は“否定”された。

個々の力のみで勝ってきた“キセキの世代”に、チームプレーを知ってほしくて。
だけど自分だけではどうしようもないことで。

そんなときに出会ったのが火神と、誠凛というチームだった。
自分が求めていた“チーム”だった。


だけど―――…




「火神(アイツ)はテツ(オマエ)のバスケを否定した」

「…ち、ちが…う…っ!」

「だから言ったろ」

「いや、だ…!」



聞きたくない!
 
青峰から遠ざかろうにも身体は拘束されていて。

動くことができないまま青峰の言葉をただ聞いているだけしかできなかった。


「火神(アイツ)の“光”は淡すぎる、って」

“キセキの世代”を知ってるお前が、あの程度で満足できるか?
…出来るわけ、ねぇよなぁ?


淡々と言って、クツリと笑った青峰から逃げ出したかった。
だけどそれは叶わなくて。

泣きそうな黒子を、青峰は見返す。


―――…もう少し、もう少しだ。



「来ちまえよ、桐皇に」


ひゅっと息を呑んだ黒子を自らの腕の中に囲った青峰は耳元で囁く。

 
「来いよ、桐皇に」


また、“オレ”とバスケをしようぜ。




伸ばされた、手。

掴んでしまえば楽になるのだろうか。

頬を滑り落ちた涙はなにを意味しているのだろうか。




―――…なにも、わからなかった。










(テツは渡さねぇ)

(誰にも)

(たとえそれが、)

(同じ“キセキの世代”でもな)



END
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