短編

□嫌いになれないだけ
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放課後の教室。

夕日が入り込み、軽くオレンジ色に染まった教室で願書の記入をしていた。
隣には高校の本が置いてあり、開いたページには“誠凛”の文字が。


自分なりに悩み決めた結果だ。


後悔はしない。してはいけない。
自分で彼らのバスケを否定したのだから。



名前の欄に自分の名を書き、住所を書き、日付を記入する。
受験する高校の名前を次に書く。


…書こうとしたのだが、手が止まる。
思わず自嘲的な笑みが浮かぶ。


優柔不断な自分に嫌気が指すし、未だに“彼ら”にすがっている自分に吐き気すらする。


“彼ら”のバスケは嫌いだ。
でも“彼ら”自身を嫌いになれないからこそ、迷うのだと思う。

 
なにも今生の別れじゃないのに…。
余計な邪念を振り払おうと軽く頭を振り、もう一度願書と向き合う。



―――…だがそれは唐突に止められた。






「―――…テツヤ」



今一番、聞きたくない声によって…。
ドクン、と心臓が一つ、嫌な音をたてた。



持っていたボールペンを握り締める。




「テツヤ」



振り向かない自分に、それでもしつこく声がかかる。



一つ、ため息をつき、ゆっくりと振り返る。



「―――…赤司、くん…」



 
振り返った先にいたのは真紅の髪が特徴的な赤司征十郎。

教室のドアに凭れかかって立っていた。
黒子と目があった赤司はゆっくりと近付いてくる。


近付いてくるにつれて、黒子は逃げ出したい感情に囚われた。

赤司の絶対者の雰囲気が、苦手なのだ。
視線を逸らすことで、意識を戻し、手元を見つめる。


あとは高校名を記入すれば良いだけだ。
そんなことをぼんやりと考える黒子。





「―――…誠凛?…聞いたことがないな」


カタリと、黒子が座る隣の席に座った赤司が呟く。
パラリと本を捲りながら黒子が書いていた願書を見つめ、目を細める。




「テツヤは誠凛に行くのかい?」

「…はい」

「…ふぅん…」


 
パタンと閉じられた本に、視線をやる。




「新設校だろう?テツヤなら違う高校も行ける」

「近かったんです」

「近い、か…」



この、目だ。
この見透かしてこようとするこの目が苦手なのだ。

思わず顔を背けた黒子。
その一瞬に、願書が奪われてしまった。




「あ…ッ!!」

「誠凛に行って何をする気だ」

「赤司くんには関係ありません。返してください!」

「部活は?たしか誠凛にはバスケ部があっただろう?」

「…ッ!!関係ないと言ってるでしょう!」


 
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