短編

□よし、決めた。
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「―――…はい、今日の授業はここまでです」


ありがとうございましたー。


教室、というには汚く、乱雑した雰囲気を醸し出す一室。
極僅かな人数で行われていた授業が終わった。



「よっしゃぁ!授業終わったー!!」


嬉しそうな声が響き渡る。
それを呆れた風に眺めるのは教壇に立つ奥村雪男だ。
授業中はずっと寝ていたくせに、終わった途端元気よく暴れ始める。

その元気を勉強に持ってきてはくれないだろうかとも思うものだ。
…だが、いつもより空元気に見えるのは気のせいではないだろう。
クラスメイトの余所余所しい態度に、内心酷く傷付いているはずだ。


ふぅ、とため息を付いたとき、教室のドアが開いた。
誰も、入ってこない。



「…?」

訝しげにドアを見つめる雪男。
その奥に見えるのは廊下だけ。




「―――…どうしたんだ、雪男?」


きょとんと、燐が雪男の異変に気付き、声をかける。
だが雪男が見ているのは廊下だとわかると、今度は訝しげに雪男を見る。


「…なんかあんのか?」



雪男の隣に立ち、ドアを見るがやはりなにもない。
生徒たち、しえみや勝呂、志摩や子猫丸、出雲もつられるように見るがやはりなにもない。


「だれかいんのかー?」


無防備にも燐が近付く。


 
その時、何かに気付いたように雪男が動き出す。



「―――…兄さん!下がれ!」

「へ?」



するり、と。

まさに音で表すならそんな感じ。
ドアの上から人が出てきたのだ。
…銃を構えて。


「―――…どわっ!!」


ドンッドンッ!!

雪男が燐の服の襟を掴み、中に放り投げる。
間一髪、スレスレを通っていく弾丸を燐は感じた。


「…ほぅ、良い反応だ」


上がる悲鳴。
それに構わず、タンッと降り立つ。
バサリと、祓魔師のコートが翻った。



「祓魔師…!」

絶句したような雪男の声に構わず、標準を合わせる。


「僕を楽しませろ、奥村燐」

「はぁ!?つかアンタだれだよ!」

「兄さん!下がってってば!」

 
前に出ようとする燐を腕で制止、雪男はホルダーに手をかける。
雪男の、今まで祓魔師として培ってきた勘が訴える。



―――…コイツハ、キケンダ。



「“サタンの落胤”の反応はそうでもないが、弟の方は反応がいい」

「なんだとっ!!」

「兄さん!」


馬鹿にされた。
カッと頭に血が昇った燐は、背負っていた降魔剣に手をかけた。
それに気付いた雪男が鋭い声で制する。


「抜かないのか、“サタンの落胤”」

「…っるせぇ!!」


渋々といった感じで手を離した燐を面白くなさそうに見る。
雪男と燐、謎の祓魔師の間に緊張が走る。

もし、ここでこの男が兄さんを殺したとして誰が咎める?
誰もが喜ぶだろう、僕を置き去りにして。

ギリッと唇を噛み締めた雪男は冷静に、男を眺める。

 
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