携帯獸−Main−
□一人じゃないって気付いて下さい
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「アイツを頼む」
そう頼まれたからじゃない。
僕の意思で貴方を此処から出してあげたい。
*
「はじめまして!僕はヒビキ。貴方を倒しに来ました」
バクフーンを撫でながらレッドと呼ばれる人を見た。
雪に溶けそうなくらい真っ白の肌。
対称的な艶のある黒い髪。
何より印象に残るのは、燃えるように赤い瞳。
彼はモンスターボールを取り出しながら僕をその瞳に移す。
「始めようか」
悲しそうに、でも楽しそうに彼は笑った。
*
「……負けた」
そう呟くと彼は俯いた。
「…レッドさん?」
動かないレッドさんに僕は心配になって、走って近寄った。
彼は被っていた帽子の鍔を下げた。
グリーン先輩が言っていたのを思い出す。
「アイツが帽子の鍔を下げた時は何か見られたくない時だ」と。
帽子の下から雫がこぼれ落ちる。
あぁ、泣いているんだ。
彼は負けて、『最強』を失って、一人になった。
……そう思ってる。
「…レッドさん。聞いて下さい」
僕はレッドさんの手を握る。
暖かいと思った。
「貴方は一人じゃないです。
……気づいてあげて下さい。あの人はずっとレッドさん、貴方を待ってます」
グリーン先輩は待ってます。
トキワのジムでいつもこの山を見上げて。
僕は握っている手を強くする。
僕の想いが伝わりますように。
「――貴方の願いは何ですか?」
僕は貴方を助けたいんです。
「……っ、…いたい」
呟いた声は風に攫われて消える。
レッドさんはこぼれ落ちて止まらない涙を一生懸命拭っている。
その涙を拭うのは僕の役目じゃない。
「…助けて」
僕はその答えに柔らかな笑みを浮かべて手を握り返した。
「…おねがいっ。僕を、ここから連れ出して」
「はい」
その為に、僕は貴方を此処から連れ出します。
「アイツに逢いたいっ……」
――真っ白な山に住む赤い王様はようやく山を降りられた。
一人じゃないって気づいて下さい
end
*あとがき*
響君目線です。
こっちも「確かに恋だった」からお借りしました。