携帯獸−Novelette−
□サヨナラから始まる
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『約束だぞ!必ずだかんな!』
幼い俺が赤の夕日に照らされている黒髪の子に叫ぶように手を握る。
首には赤の石のペンダント。
掌には一つのリングが半分にすることが出来る片割れ。
『うんっ、絶対だよ』
瞳を潤ませながら俺の手を握り返す。
あの頃はそれは実現できる願いだと、そう思ってた。
『だから‥‥』
『サヨナラ』
また逢おうね
透明なココロが頬を伝った。
俺達の後ろでは秋の終わりを告げる赤の紅葉を残して。
*
「ん‥‥」
またあの夢だ。
よく晴れた日の夕方によく見る夢。
顔はあまり覚えてないんだけど、大切な約束をしたはず。
その内容でさえ、思い出せないでいるのだが。
必ずと言っていい程、アイツの頬を伝う雫を見てから目が覚めるのだ。
「なぁお前は‥‥一体誰なんだ?」
首に下げているあの赤いペンダントを取り出す。
昔から変わらず輝く赤。
アイツとの約束の証。
一緒に親の形見のペンダントと、おもちゃのリングの片割れを首にかけている。
流石におもちゃのリングは年相応でないため、いつも服の下だが。
意味は解らなくても、俺にとって御守りみたいなものでずっと身に付けている。
カレンダーを見ると、Aprilと書かれた紙に赤で丸。
明日は高校の入学式。
柄でもないが、少しの緊張と未知の世界へ入り込むような高揚感。
机の上に置いた教科書は今か今かと使われるのを待っている。
黒の子供と赤のペンダントとおもちゃのリング。
思い出せないことばかりだけど、明日から楽しくなればいいな、なんて呑気なことを考えていた。
窓からは黄金色の光が差し込んでいた。
新しい出逢いを祝福するように。
机の上の教科書
1話 end