携帯獸−Novelette−

□サヨナラから始まる
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ようやく学校にも落ち着いてきた5月、マツバは空いている授業中の職員室でプリントの製作のためパソコンに向き合っていた。

職員室のドアが勢いよくガラっと開く。
明るい茶髪を揺らして入って来たのはグリーンだった。皆は下の名前から取ってグリーンと呼んでるからマツバも同じように呼んでいる。



「す、すみません。落とし物ボックスの物出して欲しいんですけど‥‥!」



息を切らしながら言うグリーンを見て、と鍵を取って、ボックスに向かった。
ボックスの前で黒髪の男子生徒が赤い瞳をマツバに向けた。



「あれ?レッド君も?」



レッドは本名ではないがマツバはそう呼んでいた。



「はい、これ。でも授業抜けちゃ駄目だよ」



透明のボックスの中には赤い石のペンダントをマツバの手を介して渡す。



「よ、よかった〜」



はぁ〜、と安心したようにグリーンは握りしめた。大切そうに撫でてその表情には慈愛が篭もっていた。



「‥‥余程大切なものなんだね」



ぽつり、とマツバが言葉にすると嬉しそうにグリーンは答えた。



「そうなんです!名前は覚えてねぇけど、大事な奴から貰ったもので‥‥」



ふとマツバがレッドを見ると赤い瞳でグリーンをじっと見つめていた。



「へぇ〜」



さっきグリーンにペンダントを渡した時、マツバの脳裏に明るい茶髪と黒髪の子供が笑いあってるのが映った。
明るい茶髪の少年が指輪を黒髪の少年に渡す。



「それ、大事にしなよ。‥‥君の持ってる指輪もね」



それは君に取って転機を示してくれるものだから。



「はい!」



グリーンが元気よく返事をするとレッド行くぞ、とレッドに声をかけた。



「あ、ちょっと待って。レッド君話があるからちょうど良いし、残ってくれる?」

「じゃあ俺教室戻ってっから」



マツバがレッドを引き留めるとグリーンは快く承諾した。
グリーンが去るのを見てから、マツバはレッドに向き直る。
レッドはただ感情の読み取れない表情でマツバを見上げた。



「ねぇレッド君。
君が喋らない理由を教えてくれないかなぁ」



レッドは高校に入学してから一度も口を開いたのを見たことがない。

喋れないことはないのに。

レッドが首を振るとマツバは困ったようにレッドに歩み寄った。
そしてマツバはレッドの頭上に手を置く。

感情の浮かばない赤がマツバを見る。
マツバは目を閉じたまま、レッドの頭の上に手を起き続けた。



「‥‥そう。それが君の意志なんだね、レッド君」



頷いて見せた強い輝きの瞳にマツバは何も言えなくなった。



今日の時間割







「無事に事が収まればいいんだけどねぇ」



マツバは自転車に二人で乗って下校していく生徒達を複雑な気持ちで眺めていた。



八話 end
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