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□一本の花と共に感謝を
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私たちの家には父さんも母さんもいなかった。

お爺ちゃんはいるし、可愛がってけれど“両親”とはまた違ったものだと思うの。



「ねーちゃん!」



まだ幼い弟はにこにこと活発そうな笑顔を浮かべて私を見上げてくる。



「グリーンどうしたの?」



視線を合わせるようにしゃがみ込むと何処か納得行かないような顔でムスーっと頬を膨らませる。

その仕草が可愛らしくて、でも言うと怒るから頑張ってバレないように内心で一人密かに笑う。



「ぜったいせぇこえてやるんだからな!」



私がしゃがんだことにお気に召さなかったらしい。

それでも弟は話を進めたいらしくなぁなぁと声をかけてくる。



「はいっ!」



元気な声のもと私の目の前に差し出されたのは一本の赤いカーネーションだった。



「きょうな、レッドとあそんでたらきんじょのおばちゃんがくれたんだ!」



だから、はいっ!


瞳を輝かせて笑う弟は本当に贔屓目なくいい子だと思う。



「でも何で私に?」



その時私は気がついてしまった。


私たちの家には両親がいないことを。


だから仕方なく私に渡してきたのだと言うことを。


でも弟は予想とは全く違ったことを言い出した。



「レッドに言ったら『ナナミさんにあげればいいとおもう』っていわれたから。
それにおばちゃんがいってたぞ。たいせつなのは『感謝の気持ちを伝えること』?だって!」



私の手に小さな掌で渡してくれたカーネーションは美しく咲き誇っている。



「ねーちゃんいつもありがと!」



そう言って笑う弟を私は精一杯抱き締めた。



一本



―――あれから何年も経って私もあの子も変わっていったけれど。


今も贈られるカーネーションが私の机を彩っている。



end
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