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□猛進少年、恋をする
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今まで来なかった成長期が一気に来たおかげで、背は驚く程伸び、顔付きもまだ幼さは残すものの随分大人びた。
隊医曰く成長痛で体の節々が悲鳴を上げようとも、伸びた手足が嬉しくて、稽古に励む毎日を送っていた、そんなある日…─。

「…理想ォ?」

稽古後、井戸で水浴びをしていた鉄之助の所にはニヤニヤと厭らしい笑みを浮かべた永倉、藤堂、原田の三人組がいた。

「そうそう。お前にもあんだろ?理想の女の一つや二つ」
「鉄ちゃんも男だしね。浮いた話位あったっていいんじゃないかなァって」
「あの女の子とはどうなのさー。まさか何もないとか?」

いきなり現れて「お前の理想の女ってどんなんだ?」と突拍子もない質問をされ、思いきり顔を顰る。
要はただの興味本位と暇潰し。

「女の子って沙夜の事か?たまに遊んだりすっけど…それが?」

藤堂の言う女の子に思い当たる人物の名を出した鉄之助に、彼らはあからさまに溜息をついた。
成長したのは体だけか…、やっぱりまだお子様だね、この話はまだ早いか。
明らかに馬鹿にされている感じにカチンとし、子供扱いすんな!と吠えかかる。

「大人になりたきゃ女の一人や二人作るこったな、鉄よ」
「何だよソレ!!」
「まァまァ…、じゃあさ最初に聞いたように理想とかないの?こんな人がいいなーっつー願望」
「願望って…別にねーケド……」
「仔犬君はどこまでも無垢だねぇ」

恋愛に全く免疫のない少年を微笑ましく思いながら、大人気ない三人はそれでも引き下がろうとはしない。

「綺麗と可愛いだったらどっちがいい?」
「……何だソレ…」
「系統だよ系統!美人な年上のお姉様か可愛い年下の妹ちゃんか」
「やっぱ可愛いっしょ!可愛いもの好きの血が騒ぐって!」
「俺ゃ美人だな。大人の色気ムンムンな!」
「いやいやお前らのは聞いてないって。今鉄ちゃんに聞いてんの」

盛り上がる藤堂、原田に永倉がツッコむ。
その目の前では何やら難しい顔をした鉄之助が徐に呟いた。

「……………綺麗、かな……」
「「「へ?」」」
「いやでも……可愛い………」

んー…、と思い悩むその姿に三人は顔を見合わせ、すぐに愉しそうに口角を上げる。

「んじゃよ!髪は?」
「長い方がいい、かな…」
「性格は?優しいとか明るいとか!」
「あー…優しくって、穏やかな感じ」
「鉄ちゃんノってきたネー。他は?ない?」
「そう、だな……色が白くて、線が細い…」

思い付く限り、誰を思い描いていたのかなんて自分でも分からなかった。
そんな時、鉄之助の耳に入ったのは聞き慣れた、透き通るような高声。

「あれ?皆さんで集まってなんのお話ですか?」

ドキンっ、と心臓が大きく跳ね上がる。
いつもなら直ぐさま駆け寄ってその名を呼ぶのに、今は煩い程に高鳴った鼓動が邪魔をして、永倉達の会話すらもう耳に入らない。

「お、総司ィ」
「今さ面白い話してんだよー」
「わー、何ですかァ?」
「鉄ちゃんの事なんだけどネ」

艶やかな瑠璃色の長い髪に雪のように真っ白な肌、細い体は力を入れてしまえば折れてしまいそう。
綺麗で可愛くて、優しくて穏やかな人。

「─?、鉄君?」
「……っっ!!!!」

小首を傾げて不思議そうに見上げる瞳。
自覚してしまえば後は全てが早くて、憧れの人はいつの間にか初恋の人に変わっていた。
かぁぁっと急上昇した顔の熱をどうする事も出来ず、今までにない位早鐘を打つ心臓を掴むように着物の胸元をギュッと握り締めた。



「あーらら…」
「総司か…」
「恋敵は多いぞ少年」

現にここにも三人いる事を鉄之助はまだ知らない。






鉄沖かわゆいよ

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