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□困った顔が大好きです
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静かな静かな部屋の中。
外の会話や笑い声がいつもよりやけに大きく聞こえる。
お前はこの時期になると毎年風邪をひく、と言っていた土方さんの予言は見事に的中し、昨夜から微熱を出した私は自室で一人大人しく過ごしていた。

「暇ですー」

鉄くんや永倉さん、藤堂さん、原田さん、一番隊の皆さん…等々最初の内は代わる代わるに訪れていた人達も、鬼の副長と隊医によって牽制されてしまった。
書物を読むのも飽きてしまい、一人遊びには限界がある。
愛豚のサイゾーも部屋に上げる事を禁止されて暇な事この上ない。

「外に出たいですよー山崎さん」
「いけません」

部屋の外に感じた気配に声をかければ、スッと開いた障子の先には白湯を盆に乗せたお医者様が立っていた。

「治り始めが一番大事です」
「熱もないしもう治り終わりました」
「いけません」
「少しだけ、ちょーっと外の空気を吸うだけでいいですから」
「いけません。今日は昨日より風が冷たいですから体を冷やします」
「ちゃんと綿入れも着て足袋も穿きますから」
「今日一日我慢してください」
「じゃあせめてサイゾーを部屋に入れても…遊び相手がいなくて暇なんです」
「風邪を召されているのですから遊ぶ必要はありません。しっかり体を休めてください」

次々と切り捨てられる意見に、やっぱりダメですよね…と意気消沈。
それでもやっぱり外に出たい。
一日中布団の中だなんて嫌なんですもん。
様子を窺うよう、チラリと彼を盗み見ても、無表情なのは変わる事がない。
諦めて、枕に顔を埋めると心の中で一つ溜息。
外に出たいという事だけが我が儘の理由じゃないと知ったら彼はどんな顔をするだろうか。

「(怒るかな…それとも、呆れちゃう……?)」

段々と不安になっていく心。
追い打ちをかけるように小さな溜息が耳に入った。
さすがに、怒りますよね……。
恐る恐る上げた視線の先、不機嫌かどうかも読み取れない表情のまま、彼はこちらを見ながらたった一言。

「……仕方ないですね」

それは、彼が私の我が儘を受け入れてくれた合図。
その後に必ず、困ったように小さく笑うのも勿論知ってる。

「暖かい格好をなさった上で少しだけですよ」

主人の土方さんでも親友の鉄君でも見られない、私だけの特権。
その一瞬の優しい表情が見たくて、我が儘を言ってるなんて知ったら本当に呆れられてしまいそう。

「はーいっ!」

羽織りを肩にかけてくれる山崎さんを見ながら、やっぱりまた我が儘を言って困らせるんだろうな、とそう思った。



甘えて、困らせて、また甘えて、だからどうか許してください。






悪戯おっきー

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