main

□狼さんに差し上げますわ
1ページ/1ページ

「伊作は羊の皮を被った狼だから二人きりにはなっていけないと立花先輩が仰っていました」

放課後いつものように保健室で薬の調合をしていた伊作の元にやって来た綾部は開口一番にそう告げた。
気まぐれな後輩が保健室を訪れる事は稀で、密かに(級友達にはバレバレだが)彼に想いを寄せている伊作としては嬉しい事極まりないが言われた言葉が言葉だ。
情報処理能力が上手く働かない。

「どうかされましたか?」

こてん、と綾部が首を傾げるとふわふわの柔らかな髪が揺れる。
その様子に可愛いなーなんて一番に思ってしまう辺り僕は中々の末期患者かもしれない──ちょっとびっくりしただけ、と返しながら伊作はそんな事を思った。

「それ仙蔵が綾部に言ったの?」
「はい。だから怪我をしたら必ず誰かに付き添って貰えとも」

あまり抑揚のない口調で言われたことをそのまま告げる綾部に級友の顔を思い浮かべ、伊作は溜息をつきたくなった。
人を飢えた獣のように言うのは止めろと抗議したい所だが、実際綾部には夜のお世話になった事もある訳だから何も言えない。
昨日の夜も…と危うく思い出しかけてしまった目の前の想い人の艶姿を隅へ追いやるべく、伊作はこほんと咳ばらいをして気を取り直す。

「で、綾部は何をしに来たの?」

飄々とした普段の態度からは想像し難いが綾部は仙蔵を尊敬している。
その先輩からの忠告を無視してまで自分の元に来たのには彼なりの考えあっての事なのだろうと伊作は考えた。

「試しに来たんです」
「何を?」
「先輩の羊の皮をどうやって剥がせるのかを」

予想外の言葉に目を見開いた伊作の先には、目を細め薄い笑みを浮かべる綾部。
今まで見た事のない妖艶な雰囲気を醸し出す後輩に伊作の中の雄がドクリと脈打つ。

「ねえ、善法寺先輩」

何だろうこのおいしい展開…不運の前兆?好きな子に煽られて黙っていられる訳ないだろう?僕だって男だよ?──思う事は色々あるが今は降り注いだ幸運に身を任せよう。
挑発するような上目遣いで己の名を呼ぶ綾部に伊作はクスリと小さく笑うと、その薄い肩を捕えた。

「誘ったのは君だよ」

押し倒され、自分を見下ろす瞳に映るはいつもの優しさではなく色に塗れた男の欲望。
ぎらぎらと捕食獣のような目をする彼を目の前に綾部の肌が粟立つ。
この人のこんな顔を見れるのはきっと私だけ──そう優越感に浸りながら今にも食いついてきそうな男の頬に手を滑らせた。



唇と唇が触れるその瞬間、保健室の扉を破壊して飛んできたバレーボールに頭を強打し痛みに悶える伊作がいたのであった。






ピンクなレディーの名曲より。
文が上手く書けません…


[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ