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□雪の日あたたか
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しんしんと雪が降り積もる寒い冬の夜。
委員会も終わり、食堂が混雑する夕食時に四年長屋で滝夜叉丸とタカ丸は偶然出くわした。

「あ、滝くんお疲れー」
「お疲れ様ですタカ丸さん。今から夕飯ですよね?ご一緒しませんか?」
「勿論だよ」

今日一日の出来事を話たり滝夜叉丸の自慢話があったりと食堂への道すがら話に花を咲かせていた二人を第三者の声が呼び止めた。

「平、斎藤」

振り返った先にいたのは学園一冷静と言われる立花仙蔵。
だがその呼び名とは裏腹に彼の周りの空気はピリピリとしており、機嫌が悪い事は誰の目から見ても明らかだった。
出来れば関わりたくのが本音だがご指名を受けてしまえばそうはいかない。

「な、何でしょうか立花先輩」
「喜八郎を見なかったか」

あー…やっぱり、と傍若無人な同室者の名前が出た事に滝夜叉丸は軽い頭痛を覚えた。

「あ、綾ちゃんが何かしたの?」

タカ丸が怖ず怖ずと尋ねれば鋭い眼光にギロリと睨まれる。
ひっ…!と怯むのと聞かなきゃよかったと後悔するのはほぼ同時。

「喜八郎の奴が委員会をサボってな。総出で探しても見つからぬ内に飯時になってしまった」
「「(ご愁傷様です…)」」
「見かけたら私の所に来るように言っておいてくれ」

不機嫌なオーラを隠す事なく踵を返した仙蔵の背中を見送り、二人はホッと安堵の息をついた。

「全くあいつは…」
「綾ちゃんどこ行っちゃったんだろうね?」

あーそれなら、と滝夜叉丸が口を開いた丁度その時前方に見つけた飴色。
三木くん、とタカ丸がその背に呼びかければ疲れた顔をした級友が振り返る。

「…タカ丸さん、と滝夜叉丸……」
「お前も立花先輩に捕まったのか」
「ああ…匿ったら同罪だからなって脅し付きでな」
「うわー…仙蔵くん怖い…」
「喜八郎もどこで遊んでいるのだか。本当に手のかかる奴だ」
「作法委員総出って言ってたけど浦風くんでも見つけられなかったのかな?珍しいね」
「三年は今日は野外実習ですから。立花先輩と一年二人で探してたんでしょう」
「あ、そうなんだ」
「ホントにあいつもよくやるよな」
「ねー、綾ちゃん寒がりなのに雪積もっても穴掘りはするんだね」
「あ、違いますよタカ丸さん」
「え?何が?」
「喜八郎は今日は穴掘りではなく雪遊びです。あいつ雪大好きなんですよ、全く四年にもなって」
「そうなの?へー、意外」

見た目も中身も猫みたいな級友はてっきり炬燵で丸くなるタイプだと思っていたが、意外にも喜んで庭を駆け回る犬タイプだったようだ。
意外意外、とタカ丸は軽く驚きを示す。

「でももう外真っ暗だよ。寒いし、綾ちゃん本当に大丈夫かな…?」
「大丈夫ですよ。飯を食べたら探しに行きましょう。喜八郎はともかく私達まで食いっぱぐれてしまいますから」
「おばちゃんにおにぎりも頼まないといけませんしね」

何だかんだ言いながら結局喜八郎に甘い滝夜叉丸と田村にタカ丸の口元が緩む。
自分も例外なくその一人なんだろうな、と緩やかに波打つ灰桃色の柔らかな髪を持つあの子を想った。
今日の夕飯何だっけ、確か唐揚げだろ、綾ちゃんて鳥の皮嫌いだよねー。
まだ見ぬ温かいご飯に想いを馳せながら緩い会話を続けていると後方が騒がしくなっているのに気付いた。
何をそんなに騒いでいるのかと後ろを振り返れば、騒ぎの中心にいたのは自由奔放な同級生。

「滝、三木、タカ丸さん」

頭に積もった雪も、今までどこにいたんですか!という下級生の声も、今にも始まりそうな滝夜叉丸の小言も何も気にしないで、持っていた鋤を三人に見せるように差し出した。

「見て。作った」

平たい鋤の上に仲良く並んだ小さな雪だるまが三つ。
誰か達によく似たそれらは一つは特徴的な眉を、一つは紅い眼を、もう一つはふにゃりとした猫のような口をしている。
いつもは表情の変わらない綾部がどこか期待に満ちた目で三人を映していた。

「似てる?」

こてん、と首を傾げたその子に「私はもっと美しい」と文句を言って、「全くお前は…」と呆れて、「似てる!すっごく!」と目をキラキラさせて。
それぞれが異なった反応を返すも彼らの口元は揃って嬉しそうに緩んでいる。

「…三つだけか?」
「うん」
「なら行くか。仕方ない」
「ほら、綾ちゃんもだよー」

そう言って、食堂に向かっていた足を唐突に引き返していく。
意図が掴めず不思議そうに背中を見遣る喜八郎に気付いた滝夜叉丸が「何をしている。早くしろ」と口先だけで急かした。

「どこに行くの?」
「あと一つ欲しいだろ」
「何が?」
「無気力な目してるやつ」
「だって僕ら四人だしね。三つじゃおかしいでしょ?」
「作り終ったら立花先輩の所にちゃんと行けよ」
「委員会サボっただろお前」
「えーやだ。行きたくない」
「じゃあ四人で怒られに行こっか」
「おお、名案です」
「「絶対ヤダ」」

あた

雪積もる寒い冬の朝。
四年長屋の前には四つの小さな雪だるまが仲良く並んでいた。






仲良し四年が好きです。
綾部って雪好きそう。
寒いのは嫌いだけど雪遊びは好き!みたいなイメージ。
この後結局皆で怒られに行って罰として六年長屋を掃除させられてたら可愛い。


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