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□思考回路は不思議の国行き
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競合区域内を歩いていれば所々に落とし穴やら蛸壷やらがあるのなんて当たり前で、ざっくざっくと土を掘り返す音がするもの同じだ。
べちゃりとさっきの通り雨でぬかるんだ地面。
こんなんでもあいつは穴を掘るのだなと呆れ半分感心半分で、目印のついた落とし穴をひょいひょいと躱しながら土が排出されている穴を覗いた。

「よー綾部」
「おや、先輩」

こんにちは、と泥だらけの顔を向けた後輩にこちらもこんにちはと返す。

「丁度良かった。今完成したところなんです。探す手間が省けました」

そう言いながらこちらに手を差し出した綾部の泥だらけの手を掴み、穴から出るのを手伝ってやる。
こいつのこうちゃっかりした所は嫌いではない。
むしろ面白いと思う。
私に何か用か?と問えば、大きな目でじっと見つめられながら「はい」と即答された。

「見た目は普通のターコちゃんですが中はハート形にしました」
「……?、ああ蛸壷の話か」
「ところでこれから先輩は何三郎になるのでしょうか」
「お前は本当に不思議ちゃんだな。何の事だか全く分からん」
「おやまあ」

前後の話の脈絡が全く掴めないのは綾部と話す上で珍しい事ではない。
彼の頭の中ではきちんとした流れがあった上での発言なんだろうが、こちらとしては理解するまでに些か時間がかかる。
今回もそれは同じで一向に綾部が言わんとしている事が掴めない。
はてさてどうしたものかと首を傾げていたら、何を思ったのか綾部が急に頭を下げた。

「この度はおめでとうございます」
「は?いや、…何が?」
「同じ苗字が二人いては紛らわしいので今日から三郎先輩とお呼びします」
「待て待て、お前の中だけで物事を進めるのは止せ。どういう事か一からきちんと説明してくれ」
「大丈夫です。私そういうのに偏見ありませんから。先輩、嫁入りされるのでしょう?」
「…………………………………は?」

何を言い出すのかこいつは。嫁入り?私が?雷蔵じゃなくて?いや雷蔵でもダメだけど。まあ私のところに嫁入りなら話は別で…、ってそうじゃなくて何だどうした?どうしてそういう事になってる!!??じゃあ何か!!??こいつの話は最初から私の嫁入り前提に成り立ってたのか!!??という事はあの蛸壷は私に…?

「……なぜ、私が…?」

今のこの数秒でひどく疲れ、げんなりとした私の顔を見ながらも綾部は相変わらずの無表情である。

「タカ丸さんが言ってました。天気雨の日は狐の嫁入りだと」
「……で?」
「立花先輩がよく三郎先輩を狐に例えます。性悪狐とか化け狐とか」

どこまでも斜め上を行く思考を持つ後輩に頭が痛くなる。
複雑そうで実は単純明快。
捻くれてるようで本当はただ単に素直なだけなのだ。
まあだからと言ってこれはないが……。

「あのな綾「鉢屋ぁぁ!!!!!!」
「げっ、潮江先輩…」

そういえばあの人に悪戯を仕掛けて逃げている最中だったのだと漸く思い出したがもう遅い。
それなりにあった距離は既に縮まっていて、右腕を痛いくらいにがっちり捕まれてしまった。

「鉢屋ぁ今日こそは逃がさねぇぞこのクソガキが」
「やだなあ先輩、可愛い後輩の可愛い悪戯じゃないですか」
「どこがだバカタレ!!毎度毎度人をおちょくりやがってお前は…!!」
「おやまあ」

やり取りの一部始終を見ていた綾部から発せられた平淡な声。
ぱしぱしと音が聞こえてきそうな程量の多い睫毛を揺らして瞬きを繰り返すその様に、嫌な予感しかしない。

「潮江三郎になるのですね。お幸せに」



ちょっと先輩。顔真っ赤にしてうろたえんでくださいよ。冗談ですまなくなるでしょうが気持ち悪い。






綾部にかかれば皆苦労人。

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