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□14才のはつ恋
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※過去捏造


私、雷蔵、八左ヱ門、兵助、勘右ヱ門。
いつもの面子で始まった、教師には内緒の酒盛り。
始めの内は世間話から授業、委員会の先輩や後輩の話に花を咲かせていたが、そこは年頃の男子。
程よく酔いが回ってきた頃、言い出しっぺは誰だったか話題はいつの間にか"初恋"へと移っていった。

「俺はねー、近所の同い年の女の子。結婚の約束までしたなー」

酒のせいで血行が良くなった顔をして、勘右ヱ門が終始にこにこしながら話始める。
それを筆頭に、周りに酒瓶を幾つも転がした雷蔵が常と変わらぬ穏やかな笑みを浮かべながら語る。

「僕も同じ感じかな。年上だったけど」

まあ結婚の約束まではしてないけどね、と笑う雷蔵はまだ酒を呷り続けている。
どんだけ飲むんだ一体。
あ、ザルな雷蔵ももちろん可愛いけど。

「俺は豆…「うん、聞いてない」

爽やかに兵助を牽制する勘右ヱ門の笑顔の何と恐ろしい事か。
というよりあいつ初恋まで豆腐って…本気で脳みその心配するぞ。
とりあえず今回はへべれけに酔ってるから仕方ないって事にしておくか。
豆腐…とーふ…、と聞こえた寝言(遂に落ちたか)は聞かなかったふりをしてやろう。
あそこまで行くともう可哀相になってくる、存在が。

「ねー、ハチはあ?」

私が豆腐小僧を哀れんでいる間にも話は進んでいて、勘右ヱ門から出た間延びした名前に大袈裟なくらい体が反応した。
こんなあからさまな反応をして周りにバレてやしまいかと一瞬危惧したが、今は酒盛りの場で皆それなりに飲んでいるのだから大丈夫だろうと思い直す。
平常心平常心、と自分自身に言い聞かせても体中の全神経は耳に集中し、酒で顔を真っ赤に染めた八左ヱ門を捕らえる。

「おれ?おれは…「綾部でしょ?」

呂律が回らないのか、いつもより舌足らずに聞こえる八左ヱ門の台詞を遮って、雷蔵が当たり前だと言うように一つ下の後輩の名を出した。

「え?そうなの?」
「なっ!なんで雷蔵が知ってんだよ!?」

おれ言ったか!?と焦る八左ヱ門に、何となく予想していたくせに胸がつきりと痛んだ。
まだ続くであろうあいつの初恋話(勘右ヱ門ががっちり食いついてるからな)を聞いていたくなくて、厠を理由に部屋を出て行こうかとも思ったが、聞きたいという矛盾した思いも確かにある。
結局足が厠に向かう事はなく雷蔵の隣にいる訳なのだが。

「言ってないけど分かるよ。ハチって綾部に優しいっていうか甘いし」
「まあ…、そりゃあ幼なじみだし」
「いいなー。かわいー幼なじみ俺もほしい!」
「昔はいっつも女の子にまちがえられてたかんな。今もだけど」
「やっぱり昔から可愛かったんだ」

弾む会話に入る気はまず起きない。
これが八左ヱ門ではなくて綾部の話でなかったのならいつものように茶々を入れる事ができたのに。
忍の三禁を犯している私が言うのも何だが、恋とは何と厄介なものか。

「ねえ、今も綾部のこと好きなの?」

無邪気な勘右ヱ門の声が腹立たしい。
聞きたくないと思っても完全に拒絶しないのはそれが一番聞きたい事だからだ。
我ながらなんて現金なんだろう。

「い、今は違えよ!あいつはただの幼なじみ!」
「えー?ほんとにー?」
「ほんとだって!」

否定する八左ヱ門の声を聞きながら俯き雷蔵にもたれかかる。
ただの幼なじみなんて私にとっては十分に魅力的で残酷な位置だ。
これで肯定をされてれば暫く立ち直れない自信がある。
女々しいとは自覚しているも、そうならなかったのがせめてもの救いだ。
何も伝えてはいないが、小さく身じろぎした私の心境に優しい片割れは気づいているのだろう。
その証拠に彼が困ったように笑った気配がした。

「あれ?鉢屋寝ちゃったの?」
「うん、そうみたい。元々あんまりお酒強くないし」
「珍しく聞き手だと思ったらこれかー。鉢屋の初恋聞きそびれちゃったよ」
「あはは、ほんとだね」

上手くごまかしてくれた雷蔵に心の中で礼を告げ、視界を瞼で遮った。
何が面白いのか愉快そうに笑う勘右ヱ門の声が耳につくが、慰めるように私の頭を撫でる雷蔵の手がひどく心地好くて、このまま意識を手放してしまおうと決めた。

14

あいつが羨望の眼差しを雷蔵に向けていたなんて、目をつむっていた私には知る由もなかった。






三郎が乙女すぎた。

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