人がこの世に生を受けるというのはとても低い確率なのだという。まず、私が私として生まれてきた時点でそれは奇跡に近い。私という人間は、父親の一億から四億の中の精と母親の卵から構成された遺伝子であって、もしそれが仮に四億の中の選ばれた精が私ではなかったらそれは私であって私ではない。もっと笑う子供であったかもしれないし、忍を志そうなどとは思わなかったかもしれない。そしてそれは私をこの世に解き放った両親にも言える事。あの人達がいなかったら私はここにいないし、更にその上の肉親がいなければ私を造る遺伝子はない訳である。その考えは永遠に続く無限ループ。先人の誰か一人でも欠けてしまえば、私が団子を美味しいと思う事もなかったのだ。よって私が今現在こうして存在する事はそれこそ百億分の一くらいの奇跡なのだろう。そしてもちろん、それはこの世の中にいる誰しもが当て嵌まる事である。あの人だって例外じゃない。生まれてきた事もすごい奇跡で更に出会った事さえもすごい奇跡だ。だって私が気まぐれにこの道を選ばなかったら会う事はまずなかったし、あの人が髪結いの道を決めたとて同じ事。一つ間違えれば会う事もなかった人。奇跡に奇跡を重ねてもまだ奇跡は続く。私はあの人に恋をした。またあの人も私と同じ気持ちでいてくれた。自慢話が得意な級友でも、自称アイドルな級友でも、委員会の年下の先輩でもなく、私を選んでくれたあの人。愛嬌も何もない私に「僕は綾ちゃんが好きだよ」と微笑んでくれた。生まれてきた事よりも出会えた事よりもこっちの方が奇跡だ。あ、でも生まれてなきゃあの人に会えもしない。やっぱり全部が奇跡。そう考えると私の周りは全て低い確率の中で起こった出来事が折り重なったものから成り立っているのであって、まさに奇跡だ。『奇跡は待って来るものじゃない。起こすものなのだ』と言ったのはどこぞの先人であったか。でも今なら少しだけその言葉に頷ける気がする。
独特メルヘン
「空飛んでくる」 「「「………………は?」」」 「喜八郎…委員会の仕事もせず急に何なんだ一体」 「今ならどんな奇跡も起こせる気がする」 「綾部先輩、お言葉を返すようですが人は空を飛べません…って聞いてない……」 「そう落ち込むな伝七。いつもの事だ」 「って、立花先輩!のんびりしてるバヤイじゃないです!綾部先輩いなくなってます!」 「じゃあ僕からくりを作動させて綾部先輩捕まえてきますね!」 「ちょっと待て兵太夫!お前ただ単に新しいからくり試したいだけだろ!保健委員が被害に遭うから止めろ!」 「僕本当に人間が空を飛べるのか図書室で調べてきます」 「待て伝七!どの本にもそんな事載ってない!綾部先輩の頭の中は理解出来ないから!」 「では今日は解散するか。藤内、後は任せたぞ。主に喜八郎を」 「え、ちょっ、立花先輩!!??丸投げですか!!??」
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