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□戯れる
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己の首に回された細い腕。
胡座をかいた膝の上に乗る温もり。
色素の薄い目は縋るように文次郎の顔を映す。
女物の着物から覗く白く細い足が何とも艶めかしく、とてもじゃないが直視できない。

「…ねぇ」

紅をひいた唇から零れる声の何と甘美なことか。
その気が無くとも、この美しい後輩に誘われてしまえば堕ちない男はいないであろう。
細い身体を更に密着させ、吐息が耳元にかかる程に縮まった距離にたじろぐ暇も無く、またあの声で囁かれる。

「ねぇ、──パパ」
「っっ!!!!」
「お小遣ちょーだい?」
「っだぁぁぁぁぁぁああ!!!!!!誰がやるかバカタレ!!!!」

己の理性をギリギリ保ち、力の限り叫んだ文次郎を心底鬱陶しそうに(殆ど無表情で)見上げるは二つ年下の後輩である綾部。

「五月蝿いです。至近距離で叫ばないでください」
「おめぇはよくもまあぬけぬけと…!仙蔵の差し金だって事は分かってんだよ!!予算はこれ以下はあってもこれ以上はねぇ!!分かったな!!!!」
「えーパパ意地悪ぅ」
「誰がお前のパパだ!!!!」

ごつっ、と頭に拳を下ろすと痛いのか若干涙目になった綾部に下から睨まれる。
先輩は後輩に手を上げるんですね最低です、と可愛くない台詞が可愛らしい口から出るのに文次郎の額には更に青筋が増えた。

「三木に言ってやります。潮江先輩にぼーこーされたって」
「色仕掛けの次は脅しか…お前益々仙蔵に似てきたな」
「おやまあ。最高の褒め言葉をありがとうございます」

皮肉を言っても飄々と躱すその様が女王様気質の同室者に重なり、はいた溜息が一段と重くなる。

「これ以上の長居は無用そうですね。では私は戻るとします」

失礼しました、そう言って膝の上から退こうとした柳腰を文次郎の腕が遮る。
予想だにしなかった文次郎の行動に綾部は不思議そうに首を傾げた。

「何ですか?」
「……あー、……………もう一回パパって呼「へー潮江先輩にそういうご趣味がお有りとは全く存じませんでした」

ぱしんっと勢い良く開け放たれた引き戸の向こう。
そこには下級生三人を連れた会計委員長の右腕であり恋人でもある田村三木エ門がいた。
誰もが見惚れるような笑顔を浮かべてはいるもそれが逆に恐怖心を煽る。
元凶ある膝の上の後輩は「あ、三木」とこんな状況にも関わらぬマイペースっぷり。

「いや、田村、これは…あの…何だ、その……」

歯切れの悪い言い訳に、軽蔑の眼差しを向ける下級生達が文次郎の胸を酷く痛め付ける。
悪戯を仕掛けられたのはこちらで、ナニをした訳でもないのに分が悪いこの状況。
どうしたものかと冷や汗をかく文次郎の耳にはブチ切れた可愛い恋人の怒鳴り声が劈いたのだった。

「このっ、浮気者ぉぉぉぉ!!!!!!!!」



「田村っ誤解だ!俺は断じて何もしてない!!」
「へー腰に手を回してマニアックプレイを強要させようとしていたのに何もしてないんですか」
「だから誤解だ!!」
「喜八郎、後で滝夜叉丸とタカ丸さんにもしっかり叱ってもらうからな」
「えー、立花先輩命令なのに?」
「田村!俺の話を聞け!」
「どちらも口答え無用」






仙様が予算をもぎ取る為女装綾部を会計室に送り込んで色仕掛けで攻撃。
三木はいつでもお姉ちゃん。
結局は手の掛かる綾部が一番可愛い。
綾部は結構何でもしてくれると思う。
女装だって相手をおちょくるのが目的なら「おお」とか言いながらやってくれそう。


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