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猫は死期を悟るといなくなってしまうのだと、それを聞いたら急に怖くなった。
桜色した気まぐれ子猫
「綾部せんぱーいっ!」
「せんぱーいっどこですかー!!」
声を張り上げて、兵太夫と伝七は学園の敷地を走り回っていた。
真っ先に向かった競合区域に絶対いると思っていたその姿はなく、恐怖にも似た寒気が背筋を駆け抜けた。
ざっくざっくざっくざっく。
聞き慣れた土を掘り返すその音を聞いて安心したかったのに、そこには落とし穴も蛸壷もなく、保健委員がトイレットペーパーを抱えて平和に走り回る光景だけ。
「あやべせんぱーいっ!!」
「いたら返事をしてくださーい!!」
藤内や滝夜叉丸だったらすぐに見つけられるのだろうか。
広い広い学園を全力で走りながら全力で叫び声を上げるのは一年生でなくともきついだろう。
「せんぱい…綾部先輩っっ!!」
「いやだ…せんぱい……っ!」
ぽろぽろと今まで堪えていたものが伝七の目から溢れ出し、頬を伝う。
泣き声を喉奥で噛み殺そうとするもそれは上手くいかず、ひっくひっくとしゃくり上げる声が漏れた。
隣で涙を流す伝七につられ、兵太夫の視界もぼやけ始めるが必死で堪えようと唇を噛み締める。
「っっあやべせんぱーいっ!!!!!!」
最後の力を振り絞って出した、どこまでも響く声。
怖くて、恐くて、こわくて、迫り来る恐怖心を抑えようとただ必死に。
おやまあ、と場に似つかわしくない平淡な声色を早く聞かせて欲しい。
端整な顔を泥だらけにして、鋤を片手にいつだって自由奔放なあの人。
流れそうになる涙を乱暴に擦って、泣くな泣くなと心の中で何度も訴える。
それでも溢れ出そうになるそれを何度も強く拭っていた腕を、ふと泥だらけの指がその動きを優しく制した。
「おやまあ、どうして泣いてるの?」
こてん、と首を傾げた探し人。
灰桃色の緩やかに波打つ髪を風で遊ばせた美しい先輩。
「「あやべせんぱい…っ!!」」
安堵感という名の波に涙の防波堤はいとも簡単に壊された。
幼子のように声を上げて、目の前の華奢な身体に思いきり泣きつく。
何も言わず、理由も聞かず、ただただ優しく頭を撫でてくれる手にまた安心して泣き声は一向に収まる事はない。
「せんぱい…っいなく、ならないでください…」
「ここに、いてくださいっあやべせんぱいっ」
離さないと、逃がさないと、小さな手が紫の忍装束をぎゅっと掴む。
鮮やかな青の井桁模様を二つ抱きしめ、ゆっくりとその身体を離して赤く染まった二人の目を見つめた。
「私はちゃんとここにいるよ」
その言葉に、止まりかけた涙はまた溢れて今度は嬉しさからもう一度泥だらけの紫に抱き着いた。
綾部先輩って猫みたいだと思ってたら冒頭の話を聞いて不安になっちゃった作法一年ズ。
兵太夫は最後まで絶対泣かない子。
伝七は泣き虫。
雰囲気で読んでください。