暗く湿った深い土の中。
いつも彼が好んで掘り進む地面とは全く真逆の条件を持つこの穴で、自分よりも一回り小さな温もりを抱きしめる。
泥だらけの、でもふわふわでとても綺麗な髪を撫でながら、僕は待つだけ。
決して見せないようにと僕の胸に顔を埋めて、静かに涙を流す腕の中の愛しい存在がゆっくりと顔を上げてくれるのを。
どうしたの?何があったの?
本当は聞きたいけど何も聞かない。
綾ちゃんはそれを望んではいないから聞きはしない。
「…タカ丸、さん………」
「ん?なあに?」
「雨が、降っていますね…」
まあるく切り取られた青々とした空。
時折穴の中に入ってくる風は春のそれ。
「うん…、降ってる」
きみの硝子玉のような目から流れる涙は雨に紛れて分からない。
きみの鳴咽は雨の音に掻き消されて聞こえない。
だから、誰にも気づかれないよ。
君のために雨を降らせよう
雨を理由にしなくては泣けない不器用で愛しいきみのために。
タカ丸さんに心許す綾部を書きたかったのに…不完全燃焼……。