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□焼き付ける
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……痛い。
別に怪我をした訳でも、体調が悪い訳でもないのにとにかく痛い。
真正面からじーっと、それこそ穴があくんじゃないかというくらいに見つめられて僕の身体は悲鳴を上げている。
目で人を殺す、なんて聞いた時は大袈裟だなーなんて本気にもしてなかったけど今なら分かる。
だって今正に色素の薄い愛らしい目に殺されそうだ。

「あ、綾ちゃん…?」
「はい」
「あんまり見つめられると、恥ずかしいなー、なんて…あはは、」
「おやまあ。ですが私の事はどうぞお気になさらずに」

無理だよーと訴えるが承諾されず。
気にしないでって言われてもそんな事出来っこない。
大体僕の事なんか見てたってなんも面白くないと思うんだけどな…。
何となくどこに置いたらいいのか分からないでいた視線を綾ちゃんに向けると、変わらず真っ直ぐに僕を見つめる目と自然とかち合う事になる。

「僕の顔、なんか変…?」
「いえ、普段通りのふやけたお顔です」
「ふやっ!?」

酷いよ綾ちゃん!普段からそんな風に思ってたなんて!
言葉にはせず心の中で大いに嘆くが、ばっちりと表情には出ていたみたいで、そんなに落ち込まないでくださいと声をかけられた。
うん、綾ちゃんのせいなんだけどね。

「うー…傷ついた…」
「おやまあ。そんなつもりではなかったのですが、すみません」
「じゃあ、どーいうつもり?」

思わず拗ねたような声を出しちゃったけどこれくらい許されるはず。
だって随分な時間綾ちゃんの視線攻撃に耐えていたんだ。
少しくらい僕にも反撃させてほしい。

「見ていたのですタカ丸さんを」
「それは知ってるよ」
「明日からい組は実習で二日ほど学園にいませんから」
「うん、それも知ってる」
「だから見ていたのです」

言葉足らずな綾ちゃんとの会話は、核心に触れるまでに何度も遠回りをしなければいけない。
それは最早常で、今もそう。
本当に知りたい部分は彼の頭の中だけ。
もっと詳しく、とお願いすればぱっちりとした猫目を一度瞬いてから改めて僕を映した。

「目に焼き付けて、瞼を閉じればあなたの姿が映るように。たかが二日でも姿が見えないのは嫌です。だから今のうちにいっぱいいっぱい見ているんです」

どこまでも澄んだ双眸が僕を射抜く。
さっきまで確かに感じていた痛みは嘘みたいになくなって、同じ視線を受けているはずなのに感じるのは異常に早くなった自分の鼓動。
僕の反撃はそもそも反撃にすらなっていなくて、逆に何倍もの破壊力をもって跳ね返ってきたみたいだ。

「……ねえ、綾ちゃん」
「はい、何でしょう」
「僕にも焼き付けさせて?」
「おやまあ」

きみがいない間、姿を探さなくてもいいようにこの目にしっかりと。



「……何してんのあれ」
「見なかった事にしろ三木ヱ門。私は厄介事は御免だ」
「……せめて場所を考えてほしいな」

ごもっともです!と食堂で昼食をとっていた者全員の心の声が一致した、そんなある日の出来事。






周りが見えないバカップル。

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