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□守る
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じりじりと地上を照り付ける夏の太陽は、憎らしいほどさんさんと輝きながらこちらを見下ろしている。
聞いているだけで更に暑くなる蝉の命懸けの鳴き声と、何をせずとも溢れ出てくる汗がひどく不快で疎ましい。
長屋の廊下で漸く見つけたひんやりとした日陰も自身の体温で幾分温くなり始めてきた。
せっかく見つけたのにな、と少し前まで冷たかった板敷きを三郎が懐かしんでいると慣れ親しんだ気配が徐々に近づいてくるのに気づく。

「、?」

体を起こすのすらも億劫で気配の主が傍にくるのを待っていた三郎だったが、間近にいるはずの人物が動く様子はない。
どうしたのだろうか、と疑問に思って体を起こせばそこには三郎を見ながら立ちすくむ雷蔵の姿があった。

「雷蔵?どうした?」
「………………三郎」
「ん?」
「何なのその格好は!」

だんっと一気に距離を縮めたかと思えば、両肩を捕まれ、切羽詰まった雷蔵の顔がすぐ目の前に広がる。

「え?格好?…どこかおかしいか?」
「全然!っじゃなくて、上着どうしたの上着!」
「暑いから脱いだけど」
「あー!もう!その髪も!」
「首が出るから涼しいぞ。雷蔵もお揃いにするか?」

こてん、と首を傾げれば三郎の頭上で綺麗に結われた団子も揺れる。
上半身は黒の前掛け一枚だけの無防備な相棒はその格好がどれだけ煽情的かを知らない。
普段は隠れて見えない項が驚くほど白くて雷蔵は軽く目眩を覚えた。

「すごく魅力的なお誘いだけどそれは後!それよりその格好誰かに見られた!?」
「見られたも何も長屋の廊下だからな。さっき八左ヱ門に会った」

なぜ雷蔵はそんなにも必死な様子なのだろうか、と暑さで鈍くなった頭で考えるも三郎には理由が分からない。

「あいつ、暑いのに外になんかいるから顔が真っ赤になっててな。逆上せたんだか鼻を押さえて走って行ってしまったんだ」

人の顔を見るや否や慌てて走り去って行った背中を、あの時はぼんやりと見送ってしまったが大丈夫だろうか。
委員会柄外での活動が殆どなのだし、何も初めての夏という訳ではないのだ。
まあ大丈夫だろう、と三郎が自己完結をして雷蔵を見ると、普段温和な表情が多い彼が険しい顔をしている。

「雷蔵?」

どうしたのだろう。暑さにやられてしまったのだろうか、と心配に思い声をかければ「…三郎」と深刻な声色で名前を呼ばれた。

「ど、どうした?」
「今後一切僕の前以外でその格好をしちゃダメだよ」
「…え?」
「見られたのがヘタレのハチだったからよかったものの、いやよくないけど。もしこれが豆腐とかうどんとかギンギンとか暴君とかその他諸々だったらどうするの。その場でおいしく頂かれたって可笑しくないんだよ?だから金輪際僕以外の野郎にそんな可愛い格好見せちゃダメ。分かったね三郎」
「え?へ、あ、うん…?」

一気にまくし立てられ、雷蔵に言われた意味を正直半分も理解していないが勢いに負け、つい頷いてしまった。
だが満足そうに雷蔵が笑ったので三郎も深くつっこむことを辞め、雷蔵がそう言うのならと自身を納得させる。

「ハチの事は後からうんと懲らしめておかなくちゃ」
「ん?ハチがどうかしたのか?」
「ううん、何でもない」
「?」

本人の知らぬ所で死亡フラグは立ち、天使の顔をした魔王の手によって今日も三郎の貞操は守られるのである。
にっこりと笑む雷蔵に首を傾げながらも、つられるように三郎も小さく笑った。

きみを汚すあらゆるものか

──僕が守るよ






竹谷は三郎の色気にやられた。雷蔵は最凶の壁。

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