「雷蔵?」
─どうした?
ゆるゆると上げた目線の先には、僕と同じ顔をした同室者が狼狽えたような驚愕したような、それでいて無感情のような色を宿しながら僕を見ていた。
─どこか痛いのか? ─誰かに何か言われたのか?
手当たり次第に問われる事に力無く首を振れば、自分と同じ色で同じ形をした眉が下がる。
「なら、なぜ泣いているんだ?」
はらはらと重力に逆らわずに目から零れ落ちる無数の雫。 嗚咽もなく、静かに流れる涙に本当に泣いているのかすら自分でも分からなくなるが、滲む視界にやはり泣いているのだと分かる。 でもこれは悲しくて泣いている訳でも、苦しくて泣いている訳でも、ましてや嬉しくて泣いている訳でもない。
「違うよ、三郎。僕は泣いてない」
覗き込んでいた顔が怪訝に歪む。 畳についていた三郎の手に自分の手をそっと重ねれば、彼の低い体温を感じた。
「泣いてるのはね、お前だよ三郎」
きみはぼく、ぼくはきみ。 同じようで違う。 違うようで同じ。 対になった一つの存在。
「僕らは、二人で一人だろ?」
お前が泣けないのならば僕が代わりに涙しよう。 だからどうか、一人で苦しまないで。
鏡越しに繋いだ手
せめてこの箱庭にいる間だけは。
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