リレー小説(その八)

□Knight×Laurentia!
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Side アネット




静かな、部屋の中。
俺が普段自分から進んでは来ない、医療棟の一室。
そのベッドで眠っているのは、綺麗な綺麗な、金髪の少年。
俺が手を握っても、頬や額に触れても、反応は一切なかった。
昏睡している、というヒトラー様とアルの説明に納得する。

急に部屋を訪ねてきたアルに連れ出されるままに、俺は此処に来た。
ラインハルトが怪我をした。
怪我の処置はしたけれど昏睡から覚めない。
魔術が原因のそれを解くためには貴方の力が必要だ、と。
簡単に言えば、そういうことで。

で、アルやヒトラー様、ジークフリートに合流したあと、俺はこの病室に来た。
ベッドに眠っている彼を見たときは少し胸が痛かったけれど、今はいたって冷静なつもりだ。
魔力を与える側が不安定だと、うまく魔力を受け渡せない。

「でも……」

ぽつり、と呟いた自分の声がやたら大きく聞こえた。
でも、どうしてこんなことになったんだろう。
そりゃ、騎士なんて仕事してれば怪我するのもしょっちゅうなんだけど……
こんなに強力な催眠魔術をかけられるようなことは、そうそうないだろう。

かけられた魔術を解くために魔術をかけた人間と対立する魔力が必要だった、とヒトラー様はいっていた。
それはつまり、ラインハルトを攻撃したのは氷属性の魔術使いということだろうか。

「……やめよ、考えんのは」

俺は自分に言い聞かせるようにそう呟いた。
……今は、いい。
俺は頭が良くないからたくさんのことを同時には考えられない。

此処で襲撃があったりしたら困るからと警備についていたらしいフィアも帰っていった。
アルも此処で見ていてもなんの意味もないから、と出ていった。
自分も自分なりに出来る支度をしておかないと、とアルはいっていた。
合同任務の用意のことだと思う。

困ったことがあったら連絡するように、と言われて一応すぐ傍に通信機はある。
医療棟のなかは空間移動術で瞬間的に部屋から部屋に移動出来るっていってたから、何かあったとしても大丈夫らしい。

正直医術何てさっぱりわからないし、めを覚まさないラインハルトの状況見たって俺にはなんにもわからない。
だから、俺一人で此処にいるのはあり意味不安だけど……
ヒトラー様は多量の対立魔力を流し込めば大丈夫、といっていた。
俺はそれを信じてやるだけだ。
言われた通りの事しか出来ないのがちょっと悔しいけど余計な事をするよりマシだろ。

俺はそこそこ魔力も強い方だから途中で魔力切れ、なんてことはないはずだ。
どの程度必要なのかはわからないから調整しつつ魔力を流し込む。

ヒトラー様とジークフリート曰く、ラインハルトが目を覚まして、少し落ち着いたら呼びに来てほしいとのこと。
ヒトラー様とジークフリートは別にしなければならないことがあるようだった。

落ち着いたらってなんだろう。
攻撃っていってたけど一体何が起きたんだろう。
ヒトラー様やジークフリートは何をするつもりなのだろう……

わからない。
何も、わからないけれど……
俺に出来ることがあって、良かった。
アルが俺を呼びに来てくれて良かった。
切実に、そう思う。

それぞれに出来ることがあって、それで庇いあうのでは駄目だろうか。
そんなことをいったのはヒトラー様だったっけ。
今は、その言葉の意味がわかる。
アルにはアルのできることがあって、俺には俺に出来ることがある。
だから、俺は……今、出来ることをする。

普段は攻撃にしか使わない魔力。
ぎゅっと彼の手を握ってそっと魔力を流す。
冷えた手に、俺の魔力は熱すぎるだろうか。大丈夫だろうか。
心配だけれど、眠る彼はその問いにも答えはしない。
反応のない手を握ったり緩めたりして、少しずつ魔力を流し込む。

反応のない体。
ゆっくりな呼吸。
冷たい手。

人形みたいに綺麗な人だから、こうして身動ぎもしないで寝てるのは……見ていて、不安になる。
怖いくらい綺麗、ってこういう人のことをいうのだろうか。

俺は手はしっかりと絡めたままで軽く額をぶつける。
きゅっと、手に力を込めた。
そのまま小さく呟く。



――  早く目覚まして……






 
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