リレー小説(その八)

□Knight×Laurentia!
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ヒトラー様の姿を探して、薄暗い廊下を歩く。
こつこつと、廊下に響く俺の足音。
酷く静かなその空間に、恐怖心を感じる。
色々なことを聞きすぎて、俺も怯えているんだろう。

そんな感情抱いている場合でないことくらいは理解している。
だから、平静を保ちつつ、ヒトラー様の魔力を探した。

けれど……
ヒトラー様の魔力は隠されているのか、上手く見つけることが出来ない。

ヒトラー様がそうして俺やクビツェク、仲間たちの前から姿を消すのはたいてい何かに悩んでいるときだ。
それを、俺もそろそろ理解してきていた。
だから、一層……早く見つけないといけないと思った。



―― 刹那。



「!」

不意に感じた魔力。
それに、剣を抜きつつ振り向く。
その視線の先に居たのは、一瞬鏡を見たのかと錯覚するような、自分によく似た"彼奴"だった。

闇の中に光る、鮮やかな蒼い瞳。
夜の風に揺れる、亜麻色の髪。
俺はそれを見て、目を細める。

「……何故、貴様が此処に……」

怪訝と警戒。それを灯した声。
それを聞いて、目の前に立った亜麻色の髪の青年……フォルは、微笑んだ。
どうして笑うのかが、俺には分からない。
相変わらず、食えない……堕天使。

フォルは小さく微笑んで、俺に向かって首を傾げて見せた。

「悪魔様を探しているの?」

ばっちりと、俺が此処に居る理由を言い当てる、フォル。
俺は顔を顰める。

「どうして、貴様がそれを聞く?」

彼奴は、さっき見ていたのか?
俺たちのやり取りを。
それで、俺がヒトラー様を探していることを知ったのか?
そんなことを俺が考えていると、フォルは小さく笑って首を振った。

「僕の能力忘れたの?君の親友と似たような能力、持っているんだよ」

そんなフォルの言葉に俺は思わず大きく目を見開く。

そうだった。
フォルは、アルと似た術……他人の感情を読み取ることが出来る。
もしかして、ヒトラー様の居場所も感じているだろうか?
"感情"を、思考を読み取ることで、居場所も理解出来て……いるのでは?

俺は、そう思って問いかけようとしたが、俺が口を開くより先に、彼奴は言った。

「感じるんだよね、いろんな感情……主に恐怖と不安と……あとは……」



―― "   "かな



付け足したその感情は、今この場に居ない、俺が探している彼の感情か。
だとしたら……
その感情を抱いている理由はわからないけれど、より一層彼の所に行かないと。

俺がそう思っていると、フォルはふっと息を吐き出して、言った。

「何か面倒事になっている気がしてね。
 国同士のぶつかり合いより、ずっと」

あくまで予感のようなモノだけどね、とフォルはいう。
彼奴の青い瞳には、何ともいえない色が灯っていた。

スターリンのそれとも、ヒトラー様のそれとも、多分俺のそれとも違う……
不安や恐怖といった感情はない、瞳。

俺が何をいうべきか迷っている合間にフォルはふぅと息を吐き出した。
そして、小さく呟く様な声で言う。

「……彼は、トラブルを呼び込む天才みたいだね」
「っ!」

そんな彼の言葉を聞いて、俺は大きく目を見開いた。
彼奴がいった"彼"が誰を示しているかは、一発でわかった。
フォルの首筋に剣を突き付けて、俺は精一杯低い声で凄む。

「次そんな言い方をしてみろ、俺が貴様を今度こそ殺す」

ヒトラー様がそれを誰より気にしていたから。
この国に来たことで、或いは……自分が存在することで、
いろんな人間を巻き込んだと、そう悩んでいたことを俺は知っている。
だから、目の前にいる俺の実兄の言葉は許せなかった。

俺に剣を突き付けられても、フォルは平然としている。
ただただ小さく溜め息を吐き出して、言った。

「兄弟喧嘩してる場合なの、フィア?
 後、ひとつ言っておくけど……僕は別に、悪魔様のこと悪くいうつもりは、ないよ。
 トラブルメイカーは彼だけじゃないんだから」

その言葉に俺の剣が少しぶれる。


「彼……悪魔様もだけど、君も同じだよ、フィア……或は僕も、だね」
「……さっきから何が言いたい、貴様。俺たちの前に姿を現すことに、何のメリットがあるんだ」

じれったくなって俺がそういうと、フォルは"話しが速くていいや"といった。
そして、微笑みつつ、言う。

「フラグメントである悪魔様たちにとっては僕たちが何よりのイレギュラーなんだろうから……
 イレギュラーの存在で……何か干渉できないかなってね」
「干渉……?」

一体どういうことだ。
俺が小さく首を傾げると、フォルは微笑みながら、言った。

「これから起きるかもしれない何かに、僕では役に立たないかな?
 これでも僕、魔術だけは強いんだよ……」
「それは知っているが……」

これから起きること。
それは、「明白なる運命」のことだろうか。
確かに、対悪魔になるのだし、居てくれたら助かるかもと俺は思っていたけれど……
でも、こいつの目的が読めない。
彼奴が求める対価は、何だ?

俺がそんなことを思っていると、フォルは小さく笑った。
そして、俺が歩いてきた方を見る。
そちらにはまだ、アルとスターリンがいるはずだ。

「僕は、"好きなヒト"が大変な目に遭うのが嫌なだけ。
 理由はそれだけで十分でしょ?
 僕が、ほしいと思ったものは絶対手に入れる、絶対に保持し続けようとする……
 そのことは知ってる、よね?
 これで手の内明かしたよ……
 その上で、君と……悪魔様に聞こうと思ったんだよね。
 僕もついていってはいけないか、って。
 駄目と言われてもついていく気ではいるけど余計な軋轢はないほうが良いだろうしね……
 この戦いの中で重要な役割果たす"役者"は主に、君と悪魔様だろうから」

そういいながら、フォルは俺に背をむけた。そして何処か……
確か、夜鷲の騎士がいる方を見つつ、言った。

「……ま、僕が感じた限り……
 今悪魔様に接触するのはまずいかなと思って、とりあえず君に会いに来たわけ、だけど。
 探してるのなら、会いに行こうか?兄弟二人で仲良く、さ?」

君なら何か言ってやれるかもしれないしね、と。
フォルはそういって、小さく肩を竦めていた。





 
 
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