リレー小説(その八)

□Knight×Laurentia!
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Side アル




ヒトラー様に言われて、僕は廊下を駆ける。
足が速くない僕だけれど、出来るだけ急いで。
純粋な炎属性魔術の使い手。
出来るだけ、強い魔力を有する人間……それは、一人しか思い当たらなくて。

辿り着いたのは、炎豹の騎士たちの棟。
夜に他部隊の騎士が訪ねてくるような場所じゃないから、廊下ですれ違った騎士たちは怪訝そうな顔をしていた。
僕が目指す部屋は、ただひとつ。

ドアをノックすると、明るい声で"開いてるぞー"と返ってきた。
恐らく、草鹿の棟の騒ぎはここまでは届いていないのだろう。
ドアを開ければ床に座って剣の手入れをしている赤髪の少年……アネットさん。

「アルか、どうした?珍しいなー」

僕の方を見ながら無邪気に笑う彼。
でも僕の表情を見て何かあったと悟ったのか、スッと真剣な顔をする。
僕は走ってきて少し上がってしまった呼吸を整えてから口を開いた。

「アネットさん、僕と一緒に来てください」
「え?」

何で?という顔をするアネットさんの手を掴んだ。
事情を何処まで説明するべきか悩みつつ、とりあえず口を開く。

「ハイドリヒさんが、怪我をして……」
「!ラインハルトが? 」

アネットさんは驚いた顔をする。
僕らのなかでは珍しく、ハイドリヒさんのことを名前で呼んで。
驚愕の表情を浮かべる彼に、事情を説明した。

「傷は塞いだのですが、魔術で昏睡状態なんです」

その言葉にアネットさんの表情に滲むのは驚きと戸惑い、そして……悲痛の色。
"怪我って、なんで?"と問いかけるアネットさん。
その声に若干の刺が見えた。
僕は少し迷ってから答える。

「攻撃を、受けたようで……」

誰に、とは言わなかった。
アネットさんの性格はよくわかっている。

予想通り、アネットさんの手が少し熱くなった。
怒っているのだろう……その"犯人"に。

今この場で誰からの攻撃での傷かがわかれば、事情もわからないままに相手……カナリスさんを攻撃しにいってしまうだろう。
頭に血がのぼったら本能の赴くままに動いてしまう、まっすぐすぎる性格はアネットさんの本質だ。

その性格は決して悪いことではない。
でも今はそれでは困るのだ。

カナリスさんの意図にせよ、何にせよ、ヒトラー様たちが調べてくれるまでは下手に動かない方がいい。
何が起きているのかわからない。
その状況で下手に動くことの危険性、周囲にかける迷惑は、僕が誰よりもよく知っている。

それに今彼には、ハイドリヒさんの治療に手を貸してもらわなくてはいけない。
合同任務……危険なものになるといっていた。
メンゲレさんにせよ、ハイドリヒさんにせよ、満身創痍だ。
それでもきっと、出発をこれ以上長くは引き伸ばせない。
すぐに任務に赴かないにしたって、少しでも早く回復してもらう必要がある。

動揺した表情のアネットさんに僕はいう。

「落ち着いてください。本当に、もう傷はどうってことないんです。
 ただ、目を覚まさないだけで……その治療のために、アネットさんの力が必要なんです」

そこまでいうと、僕はアネットさんの腕を掴んで走り出した。
此処で議論するのも事情を説明するのも、時間の無駄だ。

その途中でまだハイドリヒさんの病室にいるであろうフィアに連絡を入れる。
聞けば怪我人の部屋で騒ぐのは良くないと判断してスターリンさんとシストさんはもう部屋を出たらしい。
フィアは万が一襲撃があったりしたら困るから、と部屋に残ってくれているみたいだ。
僕が行ったら二人に合流するといっていた。

すぐにいくから、とだけ連絡を入れて僕は連絡を切る。

「な、なぁ、待った、アル!
 何で治療に俺が必要なんだ?治癒術はお前の十八番だろう?」

走りながらアネットさんが僕に訊ねてくる。
その表情は何処か不安そうなものだ。
詳しい事情は説明していないから、炎属性魔術しか使えない自分が呼ばれた理由がわからないのだろう。
僕は足を止めないままに答えた。

「詳しくは、僕もよくわからないのですが……
 ハイドリヒさんが目を覚まさないのは魔術の所為らしいんです。
 その魔術を解くために炎属性魔術を使えるヒトが必要で……
 ヒトラー様やクビツェクさんも炎属性魔術使いですが特殊魔力使いでもあるので、純粋な炎属性魔術の使い手でないと、と仰っていました」

そう、必要なのはなるべく強力な炎属性魔術の使い手。
それを考えた時に最初に浮かんだのがアネットさんだった。
普通に考えれば炎属性の騎士たちを束ねるアレク様を思うのかもしれないけれど、僕は彼ではなくアネットさんのところにいった。
アネットさんはヴァーチェの騎士だけれど、統率官であるアレク様よりも魔力量は多い。
アレク様の方が強く思えるのは一重にその剣術体術の強さと、冷静さゆえだ。

「なるほど……そ、っか。良かった」

納得はしているようなしていないような表情だったけれど、"俺でも力になれるんなら"といってアネットさんは笑った。

ちょうどそこで、ヒトラー様とジークフリートさんのいるところに戻ってこれた。
ヒトラー様は僕が引っ張ってきている騎士……アネットさんを見て納得した顔をした。
力量的に大丈夫と判断したのだろう。ヒトラー様もアネットさんの強さはよく知っているはずだ。

アネットさんの手を離して、僕はヒトラー様の耳元でアネットさんにはハイドリヒさんが誰に攻撃されたのかを明かしていない旨を告げた。
後々話さなければならない、或いはもしかしたらハイドリヒさん本人に聞こうとするかもしれないけれど……
少なくとも今は、話すべきではないと思うから、と。
理由はヒトラー様も理解してくださったようで小さく頷く。

「どうしたら良いのか、教えてください」

背筋を伸ばして、ヒトラーさんに向かってそういうアネットさん。
珍しくきちんとした敬語を使うアネットさんは頼もしく見えた。





 
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