リレー小説(その八)
□Knight×Laurentia!
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Side アネット
―― 多分、夢を見ていたんだ。
ラインハルトの手を握りしめたままに、疲れて寝入ってしまったらしい。
それは、なんとなく感じた。
魔術の受け渡しってのは、案外気力やら体力やらを使うもの。
殊更俺は魔力の消費が体力の消費に直結しやすいタイプで、下手に魔力を使いすぎると動けなくなる。
そんなことじゃあ任務は成り立たないから普段は頑張って調整しているんだけど、今は一大事だったから、加減なんてものを忘れていたらしい。
でもまぁいいや。
寝てるだけだし……気を失ったわけじゃあないし。
何て思う程度には、これが"夢"だと認識していた。
でも、珍しいと思う。
俺は、眠っていても夢なんかめったに見なくて、見たとしてもこんなに鮮明なものじゃないのに。
今見ている夢は、まるで現実の映像みたいにクリアで、はっきりしていた。
夢だとわかる原因はただ一つ。
その光景こそはっきり見えても、その中にいる人物の顔は認識できない。
音も遠くて、何を言っているのかわからない。
現実だったらこんなことがあるはずがない。
俺は、視力だって聴力だって常人以上の人間だから。
とは言え。
目の前で起きているその状況が呑み込めなくて、俺は一瞬混乱した。
一体これは、何の夢なんだろう?
大体少ししたら、その夢が何の夢であるのかは理解できるのに、今はそれが出来ない。
目の前の、光景。
何人か、そこには人間がいる。
でもそれが誰であるかは、わからない。
必死に、誰かに縋るようにして叫んでいる、男の姿が見えた。
少しずつ、その人間の姿だけがクリアになってきた。
背格好は俺と似たり寄ったりで。
髪色は赤色。
瞳は、良く見えない。
着ている服は白い……
―― あれ?
あれは、俺?
俺は一体今、何を見ている?
この夢は何?
そもそも、これは本当に夢なのか……?
そして……
俺の前に居る"俺"は、何故か泣いていた。
泣きながら、誰かに縋っていた。
泣きながら、何か叫んでいた。
何を叫んでいたのか、誰に対して叫んでいたのか、わからない。
でも、"俺"に縋られている誰かは、ゆっくりと首を振った。
そして、何かを"俺"に告げた様子。
相手の言葉に、"俺"は何やら驚いたように、或いは絶望でもしたように……?
その場に、座り込んだ。
***
―― ぱち、と目が開いた。
さっきまで見ていた夢の残像が頭に残っていて、少し頭を振る。
少し、頭がくらくらするくらいまで。
そして、小さく息を吐き出した。
良い夢ではなかった、気がする。
悪い夢だったと感じる要因もないけれど、良い夢ではなかったと思うんだ。
俺はあんまり泣く人間じゃない。
騎士になってからはなおのこと、泣くのはやめにしたから。
でも、夢の中の俺は泣いていた。
あれは一体、何だったんだ?
夢と呼ぶにはあまりにクリアすぎて、不気味な夢だったと思う。
しいて言うなら、昔を思い出すような夢は、あんな感じだと思う。
夢と現実の境目というか、そんな感じの夢。
或いは、既視感(デジャヴ)とか。
それは、案外ある方なんだよな、俺。
―― 予知夢?
一瞬、頭をよぎったそんな考え。
ゆっくりと首を振って、それを否定した。
「何てな」
俺は小さく呟いてから苦笑を洩らした。
まさか、そんなはずはない。
俺は、そんな能力ないからな。
アンバー様じゃあるまいし。
きっと、考えすぎだ。
大事な奴が傷つけられて、俺も動揺してんだ。
らしくなくて嫌だけど……
今そんな風に落ち込んでる場合じゃない。