リレー小説(その八)

□Knight×Laurentia!
1ページ/2ページ




Side フィア




唐突に俺たちの前から、ヒトラー様は去っていった。
ミュラー、の報告を受けてすぐ。

あれに何か書いてあったのだろうか。
すぐに確認しに行かなければ、いけないことでもあったのだろうか。

行かなければいけないところがある、そうとだけ言って姿を消した彼……――
呼び止めることもその理由を問いかけることも出来なかった。
問いかけるより先、ふらりと歩いて行ってしまった……
俺もスターリンも、その後姿を見送ることしか出来なかった。

「……一体何だったんだのだよ、あれ……」

スターリンも怪訝そうな顔をしている。
呆気にとられているように、或いは少し心配しているかのように、琥珀色の瞳を幾度も瞬かせている。

俺もヒトラー様が歩いていった廊下の方を見て、小さく息を吐き出す。

「……わからない、な。
 ヒトラー様も、色々と思うこともあるのだろうし……それに」

俺たちも考えなければならないことが、たくさんある。
あと一日二日で、アエロポールに行かなければならない。
色々なことが同時に起こりすぎて頭は混乱しているけれど……

スターリンは俺の言葉を聞いて、小さく肩を竦めた。
そして、小さく溜め息を吐き出して、呟く様な声で言う。

「考えてわかる事ばっかじゃないのが問題なのだよ……
 『明白なる運命』のことも、これから先のことも……」

想像がつくことばかりじゃないのだよ、とスターリンは呟く。

その表情は、やはり暗い。
まだ、さっきの……ヒトラー様から聞いた、最悪の悪魔の話。
それを倒す方法はあるのか。
実際それが暴走したとしたら……
その時は、どうなってしまうのだろう。
それを防ぐ手段は?

……何一つとしてまともに浮かばない……



―― でも。



とりあえず、準備をしないと。
戦えるだけの、準備を。
そう思いつつ俺もスターリンも思わず重い溜め息を吐き出した、その時だった。

「あ、フィア!スターリンさん!」

不意に聞こえたのはこの空間にそぐわない、明るい声だった。
俺とスターリンが驚いて振り向けば、駆け寄ってくる光を放つような白髪の少年。
彼はぱたぱたと駆け寄ってきて、きょろきょろと視線を彷徨わせた。

「……あれ?ヒトラー様は?」

アルのリアクションを見て、俺とスターリンは顔を見合わせた。
そして、小さく首を振りつつ、俺たちは答える。

「わからない……何処かに行ってしまったようでな」
「俺たちも行き先を聞いていないのだよ……」

それは事実。
唐突にいなくなってしまったヒトラー様。
書類に視線を落としたヒトラー様の表情は薄暗い廊下では良く読み取ることが出来なかったのだけれど……
明るい表情でなかったのはまず間違いない。
心配で、気にかかっていた……多分、それはスターリンも同じ。

アルは俺たちの反応を見て、困ったような顔をした。

「そっか、困ったな……」
「何か用事があったのか?」

スターリンが問いかけると、アルはこくりと頷いた。
そしてちょっと表情を明るくして、言う。

「ハイドリヒさん、意識が戻ったんだ。
 まだ、魔力が安定してないから暫くは安静にしていてもらわないといけないんだけど……
 大丈夫だった、ってことをヒトラー様にもお伝えしたくて……」

そんな彼の言葉に、俺とスターリンの表情もとりあえず緩んだ。
とりあえずひとつの不安要素は、消えた。
何か一つでも良いことが起きれば、それに引きずられてほかのことも何とかなるんじゃないかな、って……

それが甘いことだということは、俺はよくよく理解しているのだけれど。

アルは困ったような顔をしたままに、言う。

「僕はすぐに戻ってちょっとハイドリヒさんの様子を見たいのだけれど……」
「俺が、探しに行ってくる。多分、城の何処かにはいるだろう」

気になっていたし、と俺は言った。

あんな様子のヒトラー様を見て、理由もなしに追いかけることは出来なかった。
理由もなしに追いかけても、彼に何をいえば良いかわからなかったから。
でも……
ヒトラー様にアルからの伝言を伝えるという名目ももったままならば、探しに行ける。

俺はそう思ってスターリンとアルを置いて、一人で歩いていった。


 
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ