リレー小説(その八)

□Knight×Laurentia!
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Side アル





―― 黒いオーケストラ。



その言葉は、僕にはわからなかった。
でも、スターリンさんはわかっているようで、小さく頷いていた。
僕はただ、スコルツェニーさんとスターリンさんを見つめる。

スターリンさんは彼らの目的が何かわかるかとスコルツェニーさんに問われて、応えた。
"ヒトラー様を殺そうとしている"のだと。

そして、僕は知る。
先程スコルツェニーさんが述べた"黒いオーケストラ"という言葉の意味。
あくまで、便宜上の呼び名らしいけれど……
その組織がヒトラー様の命を狙っているのだということを。

正式に言えば、"それ"は既に起きていたことを。



―― 隻眼隻腕の暗殺者。



スコルツェニーさんの言葉に、思い出す。
あのときのこと……

ヒトラー様の部屋で起きた爆発。
煙の満ちた城の中。
そこを歩いて、走って、彼を助け出した、あの日のこと……――

あれで、ヒトラー様を助け出して終わり、に出来たら、それで良かった。
無事でよかったね、で終わりに出来たのに……

そうならなかったのは、そのあとの事態。
オリジナルの意識に乗っ取られたヒトラー様は、そのまま僕とクビツェクさんを置いて、外に走り出て行ってしまった。

それからすぐに聞こえた銃声。
フィアの叫び……

駆け寄った先には、黒髪の少年が一人倒れていて。
拳銃を握っているのはほかでもないヒトラー様で……――

「……あの人の、ことか」

そうだ。
覚えている。
あのとき倒れていた黒髪のヒト。
片目を眼帯で覆っていた、あの人……

倒れていたあの人を助けられるか、とクビツェクさんに問われた。
僕はすぐに駆け寄ったけれど、頭を撃ち抜かれていた彼を助けることは、到底かなわなかった。

出来ることなら、助けたかった。
ああして彼を殺したことは、ヒトラー様の罪になってしまうから。
でも、助けることなんて出来なかったな……

僕はその時のことを思い出しながら、小さく溜め息を吐き出した。

そして、視線を上げて、スターリンさんとスコルツェニーさんの方を見る。

「ヒトラー様は……オリジナル時代にも、殺されかけたことがあったんですよね」

僕は小さく呟く様な声で言った。
僕たち、"普通の人間"は、ヒトラー様やスターリンさんのような"フラグメント"の歴史を、知らない。
僕の問いかけに、スコルツェニーさんは小さく頷いた。

「それこそ何度も、な……」

何度も、という言葉に思わず息を呑む。
そうか、そういう立場のヒトなんだよな、彼は……
事実、"今"も、ヒトラー様は命を、その身を狙われたことが幾度もある。

「そのうちの一回が、あの……
 シュタウフェンベルクさんが、主犯だった……」
「そういうことだ。
 あくまで"主犯の一人"だけどな。今回は……一人で乗り込んできたようだったけど」

それが問題なんだよな、とスコルツェニーさんは言っている。

オリジナルの時には、実行犯の仲間……
シュタウフェンベルクさんの"仲間"も一緒に捕えられたという。
でも、今は違うから……

その、遺された人たちが彼の遺志を継いで、繰り返そうとしているという。
ヒトラー様の命を狙って……



―― そうか。



終わっていなかったんだ。
あのときの事件は、終わってなんかいなかった。
それを僕は理解した。

ヒトラー様には、確かに話しにくい話だろうな。
また貴方は命を狙われています、って。

スターリンさんはそんな僕とスコルツェニーさんのやり取りを聞いて溜め息を吐き出した。
そして長い髪をくしゃりと掻き揚げて、小さく呟くように言う。

「こんな時に国外任務なんてな……
 まぁ、国内に居れば安全なんてことはないんだろうけど」

何処にいたって安全なんてことはないのだよ、とスターリンさんは呟く。
それは、確かにその通りなのだろう……
何処にいたって危険は変わらなくて。

どうにかして、守ってあげることが出来たら、良いな。
皆、皆……
それは、甘いのかな。

「……まぁ、さっきも言ったが話すか否かはお前さんらに任せる。
 ほかの人間に伝えて何か変わるか、何も変わんねえか……それは、俺にもわかんねぇからな」

そういってスコルツェニーさんは肩を竦める、
そうですね、と呟いて僕はフィアが歩いていった方へ視線を向けた。

「……でもとりあえず、ヒトラー様が帰るのを待ってから、一度ハイドリヒさんの所に行きましょうか」

出来ることからやらないと、と小さく呟く。
僕に何が何処まで出来るのか。
スターリンさんに何が何処まで出来るのか。
……これから先、何が起きるのか。
何一つ理解など出来ないけれど……

「ヒトラー様とフィア、早く戻ってこないかな……」
「そう、だな」

スターリンさんはそう呟きつつ、ふと驚いたような顔をして周囲を見渡した。
何かを、感じたかのように。

「?どうかしたんですか、スターリンさん……」
「……いや」

スターリンさんはその表情の理由を話さず首を振る。
そして溜め息混じりに"速く戻ってくるといいんだけどな"と呟いていた。



 
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