リレー小説(その八)

□Knight×Laurentia!
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Side アネット




真っ直ぐにラインハルトに見据えられて、俺は答えざるを得なかった。
ラインハルトの傍で居眠りしたときに見た、奇妙な夢。
俺が不安がってるのがわかったかのように顔色が悪いと声をかけてくれた彼だったけれど……

俺がそれを説明したときから、若干ラインハルトの様子がおかしい。
大丈夫だといってくれることもしなければ、バカなことで不安になるんじゃないといってくれることもない。
ただ無言で、なにかを考え込むような顔をしていた。

ラインハルトが何を考えているのか、彼奴の表情の意味、理由がなんなのか、俺には全然わからない。
でも……
明るい表情じゃないのはまず間違いなかった。

……もっとも、元々ラインハルトが感情を表情に出すことは少ないんだけど。




―― ねぇ、アネットさん……




そう声をかけられて、どうした?と首をかしげた。
けれど、ラインハルトは一瞬何か言いたげな顔をした後……
すぐに、目を伏せてしまった。
そのまま"やはり、なんでもないです"と、そういって俯いてしまう。

色の白い手が、シーツを強く握っている。
その手は、微かに震えているように見えた。

……一体、どうしたんだ?
俺はそう思いながらラインハルトに向かって首をかしげて訊ねる。

「?ラインハルト?」

どうしたんだ?と俺が問いかけても、ラインハルトはただゆっくりと首を振る。
そしていつも通りな声色で答えた。

「……何でもありませんよ」

大丈夫ですから、と答えるわりに、ラインハルトは顔をあげてくれない。

さっき刺された傷がやはり痛むのだろうか。
それとも、ヴィルに刺されたという事実の所為で浮かない顔をしているのだろうか。

或いは……俺の発言、基語った夢の所為?

ラインハルトが話せと言わんばかりの顔をしていたから話しはしたけれど……
やはり、言わない方がよかったのかな。
変に嫌な夢だったから、それ聞いてラインハルトも落ち込んでしまったのかもしれない。

只でさえヴィルという旧友に傷つけられて落ち込んでいるだろうに……
悪いことをしちゃったな。

俺はラインハルトの方を見る。
彼は相変わらず俯いたままで白いシーツを握りしめていた。

俺はそっと、その手を握った。
びくっと体を強張らせて、ラインハルトは俺の方を見る。
そして青い瞳を瞬かせて、困惑したように俺の名前を呼んだ。

「!アネットさん……?」
「……大丈夫だよ、ラインハルト」

傍にいるから、と俺が言うとラインハルトは何故か凄く驚いた顔をしていた。
俺はそんな彼を見つめつつ、言う。

「まだ魔力も不安定だから、だから……不安にもなる、だろうけど」

ヴィルの攻撃には天使の魔力が纏わされていたらしい。
対立魔力であるそれをぶつけられて、それで心が不安定になるという話は、何処かで聞いた気がした。
そもそも、俺が魔力を受け渡したとはいえまだラインハルトの魔力は回復しきってないし……

俺の言葉にラインハルトは幾度か瞬きをした後、
"あぁ、そういう……"と何やら呟いていたけれど……
何の事かは俺にはわからない。

けれど、いつもなら恥ずかしいから離せというタイミングなのに、
ラインハルトは何も言わずに俺に手を握られたままでいる。

少しだけ、その手が動いた。
シーツを握っていた手が緩んで、少し開いた指の間に俺の指が入って、手を絡めた形になる。

そのまま、俺はラインハルトの隣に座って、少し体をラインハルトの方に寄せる。

少し触れた体。
まだ少し冷たく感じるのは、魔力が不安定だからか。

手を握りながらそうして身を寄せる。怒られるかなと思ったのだけど、ラインハルトは何も言わずに少しだけ、身を寄せてくる。
おずおずと、躊躇いがちに。

珍しいな、と思って声をかけようとした、その刹那……――
ドアがノックされる音がした。

それではっとしたように、ラインハルトは目を見開く。
そして、俺の方を見て、慌てたような声でいった。

「っ、離れてください!」

言われて慌てて離れはしたけど、ベッドの上で握りしめたラインハルトの手だけは離さないでいた。
部屋に入ってきたのは青い髪の男……ラインハルトの部下であるミュラーで、ラインハルトの容態を見に来たらしい。

「長官、御加減は……?
 如何なさいました?お顔が赤いようですが……」

まだ少し顔の赤いラインハルトを見て不思議そうな顔をしていたけれど、ラインハルトは何でもないと彼に返していた。
その表情は、でもやっぱり少し暗いようで……
俺は、まだ重ねたままの手をそっと重ね直して、強く握った。








 
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