リレー小説(その八)

□Knight×Laurentia!
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Side ジェイド





静かな、静かな、月明かり……
僕の腕の中で眠る、黒髪の少年。
その髪をそっと撫でつけながら、僕は窓の外を見る。
綺麗な銀色の月に、薄く雲がかかる。
少し霞んだようになる空に、僕は思わず目を細める。
僕の腕の中では、穏やかに眠っている大切な少年……

まだ少しだけ、体温が低い。
でもその寝顔は穏やかで、安心しきっているのがわかる……



―― 束の間の安息だな、なんて。




思い浮かべたくもない単語が浮かんで、僕はそっと頭を振った。
束の間、なんて思いたくはない……
でも、きっとそれは事実なのでしょうね。

だって、こんなにも色々なことが同時に起こってしまっているのだから。
メンゲレが襲われて悪魔の魔力を受け、ハイドリヒが襲われて天使の魔力を受け……

これから先に待つは、決して安全とはいいがたい外国での任務。
少しでも生存の可能性を上げるためにと僕とメンゲレまで召集されるような任務。
楽なものではないであろうそれの前に、こうしてごたごたが起きているのは偶然か、はたまた何かの予兆なのか。

ハイドリヒの意識が戻ったからと報告しに来たアルは嬉しそうな顔をしていたのですが、
それが何処か場違いに感じてしまうくらいには……この夜が、不安で。

さっきまでドアの前にクビツェクが立っている気配は感じたのですが、その気配もいつしか消えていました。
おそらく、ヒトラーの所にでも行ったのでしょうね。
そう思いつつ、僕は自分の腕の中で眠っているメンゲレの黒髪を撫でる。

「……ハイドリヒは、行かせない方が良いでしょうね」

小さく、呟いた。
彼は行かせない方が、良いでしょう。
どうにか意識は戻ったそうですが、彼は傷も負っていたのだし……
幸い、同じように対立魔力をぶつけられたにせよ、メンゲレの方は傷がない。
単純に、魔力に中てられてしまっただけのようだったから、その点で言えばハイドリヒよりはましなのかもしれませんが……

出来うることならば、メンゲレもおいていきたいと僕は思う。
こうして、安心しきった顔をして眠る彼を再び辛い思いをするかもしれない戦場となりうる場所に連れて行きたくはない。
それは、僕のエゴでしょうか。

「ん……」

小さく声を洩らして、メンゲレが目を開ける。
全く、この子は僕の想いを感じたかのように……
薄く開いた彼の深緑の瞳を見つめつつ、僕は彼に言いました。

「ベッドに入って寝たら如何ですか?メンゲレ」

出発がいつだったかは、わからない。
態勢を整えられたら、極力早く立て直していく、といったところでしょうか……
明日、明後日には出発するのがわかっているのだから、休めるときにはゆっくり休んでほしい。
そう思うからそうしたらどうかと問いかけたのだけれど、メンゲレはその言葉に少し眉を下げる。

「……ご迷惑、ですか?」

メンゲレは少し心配そうな声色で僕にそう問いかける。
……なるほど、そうきますか。
泣きながら僕に縋って眠ってしまってから幾度か目を覚ましていたとはいえずっとこの体勢で寝ていたんです。
僕が負担に思っているとでも思ったのでしょう。
でも、それははずれです。寧ろ……

「良いんですよ、このままで」

僕はそういいながら、メンゲレの体を抱きしめた。
彼は驚いたように目を見開く。

「え……」

ジェイドさん?と問いかけてくるメンゲレの声は何処か困惑したような、寝ぼけたようなもの。
それを聞きつつ僕は少し腕を緩めて、言った。

「どのみち、僕はもう少し起きていなければいけませんから。
 アルに来てくれと頼まれたら少し様子を見に行かなければならないかもしれませんし、彼……
 ハイドリヒに伝えておきたいこともありますし、その時には貴方を起こしてしまうかもしれないのですが……」



―― 今は、もう少しこのままで……



らしくないかもしれない。
でも今は少しだけ……こうして、貴方を抱きしめていたい。
それは、こんな不安を抱いているからでしょうか。

僕は彼を抱きしめながら、そっとメンゲレの黒髪を撫でる。
そして、ふっと息を吐き出して……言った。

「……ねぇ、メンゲレ」
「僕は、残りませんよ」

僕が言おうと思ったことを口にするより先に、メンゲレは言う。
僕は思わず苦笑を洩らして、メンゲレに言った。

「……言う前に否定しないでくださいな」

やはり貴方は残りませんか。
僕は、そういおうと思っていたのですけれど……
彼は、それが嫌だというのです。
くす、と小さく微笑んで、メンゲレは僕に言いました。

「だって、それを言うつもりでいたでしょう、ジェイドさん。
 大丈夫です……だって、傍に居てくださるんでしょう?」

貴方が居てくれるのなら、きっと大丈夫だから。
メンゲレは、僕にそういうのですよ。

「……その言葉は、純粋に嬉しいですよ……ありがとう。
 ちゃんと、守りますから」

僕は、ただメンゲレを抱きしめる。
僕が不安がっていたら、一緒に行かなければいけない部下が、仲間が心配になるでしょう。
僕は、一緒に行くメンバーの中でも年上なのですから……しっかり、しなくては。

僕は少し心配そうな顔をしているメンゲレを抱きしめて、小さく息を吐き出した。



 
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