短編

□93.守る
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至誠祭が開催される前日に右京から連絡があった。
「明日さあ至誠祭で刀打つから見においでよ。それでさ、そのあとデートしよー」
久々に連絡をよこしたかと思えば至誠祭を見に来いなんて怒ってやろうと思ったけどその次の言葉を聞いて「うん」なんて即答してしまった。


そして今、鍛冶屋ってところで右京が刀を打っているのを見ている。
かれこれ1時間ぐらい…。
もう見ているのも飽きたのでちょっと別のところにでも行こう。





















ナデシコグランプリでは王子くんが優勝してた。
公開稽古では斉藤くんと式守くんが楽しそうにしていた。
なのになんか私だけ一人で、浮いてるみたいで悲しくなってくる。
「帰ろうかな…」
誰に言うわけでもないのにぽつりと呟いた声にさらに悲しくなる。
声になんて出さなきゃよかった。



1人で校門に向かって歩いていると至誠館の制服を着た男の人たちに呼び止められた。
「1人?一緒に遊ばない?」
「ごめんなさい。もう帰るので…」
一刻も早くここから出たい。



「えー、一緒に剣舞見ようよ。ね?」
男は名無しさんの手首を握り無理矢理つれていこうとする。
「ちょっ…離して!」
女の名無しさんの力では敵うはずもなくずるずると引きずられるようにして連れて行かれそうになった時、長身の男がこちらに歩いてきた。



「ごめーん。その子僕の彼女なんだけど?」
剣部は軽い感じで名無しさんの手を握っている奴らに声をかけたが目は笑っていなかった。


「ひっ!!剣部右京の彼女!!?」
名無しさんの手を掴んでいた男たちも剣部の纏うオーラに気付いたのか名無しさんから手を離して逃げて行った。


















「……怖かった…。」
「うん。ごめんね、来るの遅くなって」
「私一人で、…お店とか…見てても楽しくないし…」
今にもこぼれてしまいそうなほど名無しさんの目には涙がたまっていた。

「うん、名無しさん…おいで」
そういって剣部が腕を広げると、ずっと下を向いていた名無しさんが勢いよく顔を上げて腕の中へと飛び込んできた。


抱き着いた右京はうっすらと汗をかいていて、きっと私がいなくなったことに気が付いて走って探していたんだと思った。
そのことが嬉しくって腕に力を入れるとごめんと謝りながら右京も腕の力をほんの少しだけ強くして名無しさんを抱きしめた。








(明日デート仕切りなおそうね)
(うん。映画観に行きたい)
(いいよー)




























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