三空ラバーズに39のお題

□02.右手と左手
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少し後ろを歩く。
前を歩くその人は普段の法衣ではなく、町に行くために私服に着替えて前を進んでいく。
金色の髪が歩く早さに揺れて、まだ高い位置にある太陽がその髪をいっそうまぶしく輝かせている。
本当はその隣を歩きたいのだけれど、大きなその背中を眺めながら歩くこの位置も、けっこう気に入っている。

(あ………)

距離が、少し離れる。
三蔵の歩が早まったのか自分のが遅くなったのか。
どちらかわからないけれど、さっきよりも離れた距離を縮めるために少しだけ歩幅を大きくしてその背中に追いついていく。
ふと、思う。

(…………どう、するだろ)

それはちょっとした悪戯心だったかもしれないし、試してみたかったのかもしれない。
距離を縮めるために大きくした歩幅を、元に戻した。
そして逆に、歩く早さを少しずつ遅くした。
少しずつ、少しずつ離れていく、二人の距離。
金色の髪が、大きな背中が、少しずつ離れていく。

(…………気付かない……かな…………)

もとより人のことを気にかけない人だから。
後ろを歩く自分のことなんか、気にも留めないのかもしれない。
そう思うと、故意に遅くしていた歩みが無意識にどんどん遅くなっていく。
小さくなっていく、金色の姿。

(う、わ………自分でしたことだけど………ちょっと、悲しいかも)

なんだか、自分勝手だけど悲しくなってくる。
本当に自分勝手な想いだ。
それを振り切るかのように顔を横にブンブンと振って、前を行く背中に追いつこうと駆け出そうとした瞬間。

ピタリ。

前を進む三蔵の背中が、止まる。
そして、ゆっくりとこちらに振り返ってきた。

「なにやってんだ、バカ猿」

そして。

「行くぞ」

振り返ったのはほんの少しで、声を掛けるとすぐに前を向いて、また道を進み出した。
けれど、気付いてくれた。
それだけでこんなにも嬉しくなるなんて、けっこう自分は現金だと思う。
また遠ざかっていく背中に、けれどもさっきまで抱いていた気持ちはどこかに吹き飛んでしまった。
そして、気付く。
どこか不自然に投げ出されている、三蔵の左手に。

(あ………)

どこか後ろに向けられている、左の手のひら。
その手の意味は、自分が勝手に思うものと一緒だろうか。
その答えを出す方法は。


三蔵の背中を、駆け足で追いかける。
どんどん大きくなっていく、その背中。
投げ出された左手まで、もう少し。


右手と左手が重なった瞬間、出た答えは?





END.

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