三空ラバーズに39のお題

□10.これは闘い
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紅孩児との戦いで負った傷は、思いのほか深いものだった。
八戒の気功でも治せる限界がある。
かろうじて骨は繋がったものの、敵を殴ることも如意棒を満足に振り回すことも儘ならない状態。
けれども敵は待ってはくれない。
こんな状態の悟空は、敵からしてみれば格好の的である。
先日も妖怪の襲撃の際に右手を庇った瞬間、妖怪の爪が目の前まで迫ってきていた。
その時には三蔵の銃弾が飛んできて難を逃れたが、その時に痛感した。

今のままでは、足手まといだ。








「俺だけの、闘いなんだ」

三蔵を真っ直ぐ見つめて、言う。
三蔵は火の付いた煙草を左手に持ったまま、何も言わない。
トントンと煙草を揺らして灰を落としはするが、その続きを吸おうともしない。
ほんと、何しに来たんだろう、と思う。

「それ吸い終わったら、部屋戻れよな。…………俺も、もうしばらくしたら戻るよ」

三蔵から視線を外して、握る如意棒に力を込める。
痛む右手でも、少しはマシに戦えるようにしておかなければならない。

足手まといなんて、まっぴら御免だ。






しばらくすると、三蔵が来たときと同じ足音が、今度は遠ざかっていった。
いつもなら思わないけれども、今の状況では一人にしてくれることがとてもありがたかった。

これは闘い。
これは自分との闘い。
自分だけの闘い。

だから、今は放っておいてほしいというのが本音。
でも、やっぱり来てくれてほんの少しだけ嬉しいのも本音。

けっこう現金なヤツだ、と自分を評価しながら、悟空が三蔵の去っていった方向に振り返る。
もう三蔵の姿は見えない。
けれども、先ほどまで三蔵が立っていた場所に、何かが置いてあることに気付いた。
辺りは暗くて何かはハッキリわからず、悟空は首を傾げながらそれに近付く。
数メートル手前まで来て、ようやくそれが何だかわかった。

ペットボトルに入った、水。

封は開けられていない。
一番上までなみなみ入っている水に、悟空が瞬きを繰り返す。
そして如意棒を右手に、上体を倒して左手でペットボトルを手に取ると、それはまだ冷たかった。
少し外の暑い空気に触れて、表面には水滴が付いている。
左手から伝わるヒヤリとしたその冷たさが、悟空には心地良いものだった。

「ったく………。素直に、渡していけばいいじゃん」

そうしても、自分は素直に受け取ったかどうかわからないけれども。
自分でも思うけれども、妙なところで意地っ張りなのだ、自分は。
それは三蔵も同じだと思うので、これでいいのかもしれない。
ペットボトルを頬に付ければ、ヒヤリとした冷たさがなんとも気持ちいい。

「…………サンキュ、な」

今はここにいない人に、そう呟く。
右手で、如意棒をぎゅっと握った。



ペットボトルを傾ければ、喉に冷たい水が流れ込む。

まだまだ、頑張れる。

そう、思った。




END.
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