BOOK

□君のいる世界
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「う・・・ん・」


けだるい身体を反転させながら私は寝返りをうった

その瞬間私は深くため息をついた


ベッドにはもうチャンソンのぬくもりは消えていた
今はただ冷たく空いたスペースが空しく感じるだけ


昨日の事がまるで夢だったかのように
幻だったかのように

静まり返った部屋に私は一人横たわっていた


分かってる
こんなのいつもの事

だから大丈夫

だってまだチャンソンをこの身体が覚えてる

夢じゃなかった事は何よりもこの身体が知ってる


チャンソンはいつも激しく私を抱いた後、まるで私をお気に入りのぬいぐるみみたいにぎゅっと抱きしめて眠る

大きな身体で腕で私の全部を包みこんで静かに眠りにつく

そんなチャンソンの寝顔を見ていると、このまま時が止まって欲しいと願う



けれど私達の間には何もない

それでもあんな風に私を抱きしめて、すやすやと寝息を立てているチャンソンを見つめていると全てを忘れてしまう

夢を見てしまう


そして私はまた同じ過ちを繰り返す

あんなに激しくきしんだベッドの音も私達二人の吐息さえもすべて幻だったのかと思える

昨日と今日ではまるで別世界

まるで天国と地獄のように


次またいつチャンソンがあのベルを鳴らしてくれるか分からないのに

私は毎日チャンソンの亡霊に悩まされ続ける事になる


何をしてもどこにいても誰といてもチャンソンを探してこの身体がチャンソンを求めてしまうのだから

私は想像しただけで深いため息をついてしまった
それがどれだけ苦痛な事か、私は知っているから


携帯が鳴り出し私は慌てて携帯をつかんだ


「もしもし・・」


私は少し構えた口調で電話に出た

なぜなら電話の相手は昨日の人物だったから

昨日、あんなに不自然に電話を切った事、追求されるのが怖かった


「今は平気・・?」


少し意地悪に言ってクスリと笑った


「え・・あ・・昨日はごめんね、急に切ったりして」


私は早口で答えた


「こっちこそ悪かったな・・取り込み中に」


「え・・やだ別にそんなんじゃ・・」


また早口で答えると今度は明らかに声を出して笑った


「お前、嘘つく時早口になるの相変わらずだな」


そう言ってもっと声をあげて笑った


「ちょっ・・!ほんとに違うんだってば!
あれは寝ぼけてただけで・・!」


「ははっ・・!そういう事にしといてやるよ」


懐かしい笑い声が耳をくすぐる

笑い上戸でよく笑う人だった

いつも私を笑わせてくれた



あんなに好きだったあの頃が懐かしい


「・・で!久しぶりに何の用・・?」


私はバツが悪くて少し怒った口調で話題を変えた


「なんかさ・・急にお前の声が聞きたくなって」


急に甘いトーンの口調で囁かれた私は思わず胸が激しく高鳴った


「ちょっと・・!そういう事、元彼が言っちゃだめでしょ!」



思わず声が上ずってしまう

そう、決して嫌いになって別れたわけではなかった

だからあの頃の心の欠片がまだ私の中には残ってる


「なんで・・・?」

「なんでって・・とにかくそういうのやめて」


思わず突き放した様な口調で言ってしまったのに何も気にしていない

そんな所も変わってない


「じゃあさ、今晩会える・・?」

「はあ?」


私は思わずへんてこな声を出してしまった

だって別れてから一年余り、一度も会わなかったのに・・どういうこと?


「な・・なんで会うの?会う理由ないでしょ・・?」


するとすかさず返してきた


「会わない理由もないだろ・・?」


その答えに私は思わず笑ってしまった


「ジュンスも相変わらずだね・・!
あ・・!ごめん、今はミンジュンだよね」


「あ、知ってたの・・?」


意外、といった口調でミンジュンは笑った


「あなたって意外と有名人なんだよ」


私は少し皮肉交じりにそう言った


「なんだ・・まだ俺のこと気にかけてるのかと思ったよ」


冗談とも本気ともつかない声でそう言うとミンジュンはじゃあまた明日、と言って電話を切った


私は静かに携帯を置くと小さな胸の高鳴りを覚えていた

それと同時に甘く切なく締め付ける胸が苦しくて一年前を思い出した

またこんな気持ちを思い出すなんて思ってもみなかった


切なく締め付けられる胸とほてりを残した身体の狭間で私は揺れていた

昨日、熱く激しくチャンソンに抱かれた感触を思い出しながら・・・
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