BOOK

□君のいる世界
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人の記憶というものはなんとあいまいなものなのだろうか

どんなに嫌な思い出も辛かった出来事も過ぎてしまえばさほどでもなくなってしまうのだから

嫌な思い出は薄れ、楽しかった思い出ばかりが色濃く映し出される

それは私の場合、恋愛も同じらしい


一年という年月がとても辛かったはずなのに今となってはずっと昔の事の様に感じる

なのに、前と変わらず同じ場所でこうして彼を待っていると一年の月日なんてなかったかの様にも感じる


私は少し冷めたコーヒーをすすった


なんで急に会おうだなんて言い出したのだろう

私は少し困っていた


どんな顔して会えばいいのか
何を話そうか

老けたと思われやしないか

一年前のあの日、本当は私に何を伝えようとしていたのか


そんな色々な事がぐるぐると頭の中をめぐって私は混乱していた



もう終わった事

そうふんぎりをつけたはずだった

なのに今になってこんな気持ちにさせるなんてひどいじゃない・・?


「ごめん、待った・・よね?」


突然ひょこっと私の前に現れてにっこりと微笑んだ


私の目の前に突然現れたミンジュンは…
一年前と何も変わらない優しい笑顔で私に微笑んだ

いや、むしろもっと素敵になったかもしれない

私は思わず動揺してしまった


「別にいつもの事だし・・!」


そう言って私はわざとらしくふくれてみせた


「え・・?」


そんな私を見てミンジュンは一瞬固まった


「私、そんなに変なこと言った?
だっていつもの事じゃない・・・」


そう言いながら私ははっとしてしまった

付き合っていた当時の私達は本当に会う回数も時間も限られていた
そして私の役目はいつだって待つ事だった

忙しい人だって分かっていたから、会えるだけで幸せだっただから私は少しも苦じゃなかった

でも少しだけミンジュンに意地悪したくて私はいつも決まって同じ台詞を言ってふくれて見せていたのだった

それを一年たった今、同じ事をしてしまったなんて・・・

自分でも驚いてしまった


「…何よ…?」


バツが悪くなってそう言った私をミンジュンはじっと見つめていた

昔と変わらない優しい瞳で見つめていたずらに私の胸を締め付ける


まるで一年前にタイムスリップしたみたいだ


「何でもないよ・・!何か美味しいもの食べに行こう!」


無邪気にそう言って私の手を掴むミンジュンは昔と何も変わってなかった

そう思うと私は少しほっとした
けれどそれと同時に少し怒りもこみ上げてくる

だってこんなに私をドキドキさせて心乱しておいて

あんなにさらっと変わらない感じでこられてもそれはそれでちょっと腹が立つってもんでしょう


「何食べようか・・?」


あったかい柔らかな手と懐かしい声が私の心をほぐしていく

だけどミンジュンの包み込むような眼差しが少しだけ私を居心地悪くさせる


「あったかいもの食べたい!」

「OK!じゃあ、行こう!」


そう言うとさり気なく私の手をするりとほどいた

その瞬間、私はホッとしたのと同時に複雑な気持ちになってしまった


やっぱり元彼とは会うべきじゃなかったのかもしれない



私は少し後悔していた
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