BOOK
□「守りたいもの」1
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「寒い…」
帰宅したばかりの冷え切った自宅に帰った私は思わず一人呟いた。
今年は暖冬と言うけどさすがに11月にもなると寒い。
小走りにキッチンへ向かい熱いコーヒーを淹れるとようやく一息ついた。
「こんな時は身にしみるなぁ…」
私はまたもや独り言を呟いた。
私には付き合って半年になる彼がいる。
でも彼との恋は障害が多い。
会いたい時にいつでも会える訳ではないから。
何故なら私の恋人は韓国にいるのだ…。
だから“彼”がいますとは言ってもいつも寂しい気持ちを我慢するばかり…。
そしてもう一つ障害がある。
それは私と彼の関係が秘密である事。
彼の名前はファン・チャンソン。
最近は知っている人も増えたかもしれない。
そう、彼は私の様な一般人ではないのだ。
お隣の国、韓国のアイドルグループ2PMの一員なのだ…。
何故そんな別世界の人が私の恋人なのかと今でも夢じゃないかと思う。
けれど毎日くれるメールと忙しい合間を縫ってかけてきてくれる電話の履歴がウソじゃないって事を信じさせてくれるんだ…。
彼のグループは本当に売れっ子なので毎日本当にハードスケジュールな様だ。
毎日くれるメールも電話も申し訳なくなるくらい…。
本当は私も自分から連絡したいけどそれはしないと決めている。
昼夜関係なく働くチャンソンにはせめて自分のペースで連絡をとってもらいたいから…。
だから携帯はお守りの様にいつも肌身離さず持ち歩いている。
私は少し冷めたコーヒーを飲み干すと毎日の日課となっているPCのメールをチェックする事にした。
毎日の事だけどこの瞬間は本当に胸が高鳴る。
ここ一週間は毎日くれていた電話がなかった。
メールには忙しくてごめんとあったけどこんな事付き合ってから一度もなかったのに…。
日本進出を果たした彼等はますます忙しくなったという事なのだろう。
けれどそんなチャンソンの成功を素直に祝ってあげられない自分がいる。
半年前の私だったらそれも出来たかもしれない…
でももう私にはムリだ…。
彼を…チャンソンを独り占めする喜びを知ってしまったのだから…。
私は、はやる気持ちを抑えつつPCを開いた。
「…ない」
私はポツリと呟いた
なんで…?
メールだけは必ずくれたのに…
チャンソンからのメールだけが頼りだったのにどうして…?
私は遠のきそうになる意識を必死につなぎ留めた。
「ただ忙しいだけよ
年上の私がジタバタしてもしょうがない
ヌナならヌナらしくしっかりしなくちゃ」
私は奮い立たせる様に自分に言い聞かせた。
けれど頭の中は次々と嫌な事を考え出す。
忙しいと思ってたのは私だけで本当は飽きられちゃったのかな…。
考えたくないのに自分で止められないよ…
チャンソンに会いたい…会ってチャンソンのぬくもりを感じたいよ…
そう思った私は一目散にDVDを再生した。
それは私のお気に入りの一枚…
こうして程なくして私は“彼”に会う事が出来た。
TVの中のチャンソンはいつも輝いている
ステージの上で沢山の光を浴びているチャンソンが一番格好いいよ…
私は時間が経つのも忘れて観続けていた
TVの中のチャンソンは涙で滲んでぼやけて見えた―