BOOK

□浮気虫
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私は悪い女だ

それに気付いたのはいつからだったのだろう


彼は知ってる

私の心の奥底に眠る声を

見透かすように見つめる彼の視線に私はいつまで耐えられるのだろう


それはきっと誰にも分からない




「…うう…ジュンスのバカ…アホ…ううっ…」


私は今日も一人、寂しさを酒で紛らわせていた


今日もジュンスに約束をすっぽかされた

いや、ちゃんと電話はくれた

仕事をしている時は夢中になっちゃう事も分かってる

私を嫌いになった訳でもない事も分かってる

けど,これで何度目?


私は飲みかけのビールをおぼつかない手で口元へ運んだ

けれど私の腕はふいに掴まれビールが口に届く事はなかった


「名無しさんっ!
またこんなに飲んで…!ほら、帰るよ?」


そう言って私の身体を支えた


「チャンソ〜ンッ!遅いっ!」


「あのねぇ、これでもすっごく急いで来たんだよ?」


私をうらめしそうに見るチャンソンは確かに肩を上下させ息を上げていた


「ん〜っ、いいコ、いいコ!」


私はチャンソンの艶々の髪をくしゃくしゃにした


「も〜、ヌナ飲みすぎ!ほら、一緒に帰ろ…?」


そう言って私を優しく扱ってくれるチャンソン


「ね〜チャンソン、アイス食べたいよ〜」


帰り道の途中私はコンビニの前で足を止め、わがままを言ってみた


「もうちょっとで着くよ?」


そう言って私の手をクイクイと引っ張った


「やだ!アイスが食べたいの〜!イチゴのやつ〜!」


するとチャンソンはちょっと待っててと言ってすぐにアイスを買って来てくれた


「帰ったらアイス一緒に食べようね」


チャンソンは私の肩をしっかりと抱き寄せながら諭すように言った


「は〜い!」

私は上機嫌で返事をするとチャンソンの肩にもたれながらなんとか家に帰る事が出来た


「ヌナ大丈夫…?ほらお水飲んで」


チャンソンがキッチンから水を持って来てくれた


「ん〜…」


私はチャンソンからコップを奪い取ると勢い良く口元へ運んだ


けれど水は私の喉を通らずに口元から次々にこぼれ落ち胸元を濡らした


「も〜名無しさんしっかりして!」


そう言って私の口をハンカチで優しく拭った

濡れて肌に張り付いた服をチャンソンは一生懸命に拭いている


「あっ…ごめんっ!」

急に気付いたように私から離れるとチャンソンは小さく呟いた


「アイスは…?」

「えっ…?あっ…ちょっと待ってて」


そう言うとチャンソンは慌てて冷蔵庫へと走っていった


私はそんなチャンソンの後ろ姿を見ながら高鳴る胸を必死に静めようとしていた


チャンソンは優しい

ジュンスとケンカした時も、今日みたいにすっぽかされた時も

いつだってチャンソンはすぐにとんできてくれた

寂しくてぽっかり空いてしまった心の隙間を埋めてくれるのはチャンソンだ

けれどいつからかずっと弟みたいに思ってたチャンソンを私は男として意識するようになっていた

気付かなかった、いや気付こうとしなかったチャンソンの男の部分を見るとどうしようもなく胸が騒いだ


今だって…

近づいたチャンソンの吐息が苦しくて

私の胸元に触れたチャンソンの手の感触が熱く残ってる


やっぱり私は…

悪い女だ


チャンソンの背中を見つめながらそう思った
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